ハッシュパピー バスタブ島の少女

ハッシュパピー バスタブ島の少女 “Beasts of the Southern Wild”

監督:ベン・ザイトリン

出演:クヮヴェンジャネ・ウォレス、ドワイト・ヘンリー

評価:★★★★




 物語の舞台となるバスタブは湿地帯にある。鬱蒼と生い茂る草木。見慣れぬ生き物が普通に生きる沼地。ちょっと歩けば泥が身体にこびりつく大地。鬱陶しいほどに飛び回る昆虫。喰う寝るを繰り返しながら戯れる家畜。大木の上に作られた家。そこにある必要最小限の生活道具。整理はされていない。当然暮らしは原始的になる。はっきり言って、衛生的ではない。ちょっと外れたところから、土手の上に工場が見えるのがシュールだ。

 けれど奇妙に惹きつけられる。自分ならばせいぜい一日ぐらいしか生きられないだろうと承知しつつ、それでもこの場所が放つ匂いに抗えない。ここには文明社会の装飾を剥ぎ取った姿がある。剥き出しになるのは、「生」と呼ばれるものに違いない。限りなく純粋に近い。その音が静かに聴こえてくる。

 『ハッシュパピー バスタブ島の少女』の主人公は6歳の少女だ。名前をハッシュパピーと言う。彼女はバスタブから出たことがない。父とふたりで暮らす彼女が、遂に世界を知る物語だ。バスタブの中の暮らしが全てだった彼女にとって、世界は厳しい。大嵐によりコミュニティは水没し、父は不治の病に倒れる。その上、文明が介入する。それに必死に立ち向かう小さな身体に、命を見る。

 ハッシュパピーと父親の関係に凄味がある。父は娘に対して辛辣な態度を取る。手を上げることもある。けれど、そこには確かに、親子でしかあり得ない結びつきが見える。父が娘に叩き込むのは、決して命に優しくないバスタブで生き抜くためのサヴァイヴァル術だ。食べ物の調達法。調理法。獲物の狩り方。道具の作り方。近くに住む人々の手を借りながら、しかし安易な助け合いを拒否しながら、娘の生存能力を鍛えていく。とりわけ喰うことに対しての向き合い方が印象的だ。大体、別の家で寝るというのからして徹底している。父が言い放つ「感じて、生きろ」の言葉がずしりと響く。

 ハッシュパピーはそれを全身で受け止める。その小さな身体のどこにそんな力があるのだろう。ちりちり頭に二、三匹の鳥を飼いながら、少女は決して音を上げない。演じるクヮヴェンジャネ・ウォレスの目つきが良い。笑顔や泣き顔は僅かしか見せない。そんな顔を見せる暇があるなら、不敵に対象を睨みつける。頬を膨らませ、力こぶを作れば、彼女はバスタブの王になれる。

 ベン・ザイトリン監督は過酷なバスタブの生活に魔法を振り掛けることで、神話性を高める。環境破壊が進み氷河が溶け出し、凍っていた獰猛な野獣がバスタブに向かい来る。ハッシュパピーは巨大なそれに怯まない。いや、怯むまいと急激に心を変化させる。その過程に灯る魂の輝きこそ、映画の命だ。ありのままの映像が胸を打つ。ザイトリンの想像力がハッシュパピーの背中を後押しする。

 ハッシュパピーが生き物に耳をくっつけて心臓の音を聞く場面が何度も出てくる。生とは何か。息をするというのはどういうことか。愛する意味はどこにあるのか。そうして少女は学んでいくのだろう。最後に聞く心臓の音が切ない。けれどそれがまた、未来へと繋がっていく。ハッシュパピーの第一歩が頼もしい。





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