天使の分け前

天使の分け前 “The Angels' Share”

監督:ケン・ローチ

出演:ポール・ブラニガン、ジョン・ヘンショウ、ガリー・メイトランド、
   ウィリアム・ルアン、ジャスミン・リギンズ、ロジャー・アラム、
   シヴォーン・ライリー、チャーリー・マクリーン

評価:★★★




 青年は暴力沙汰を起こして少年刑務所に入っていた。子ども時代は父や母の愛をまともに受けた記憶がない。恋人の家族とは折り合いが良くない。赤ん坊が生まれたのは嬉しいけれど、仕事の当てはない。寝場所の確保のために友人宅を転々としている。さらには昔から仲の悪い奴等に、相変わらず目をつけられている。どうして生きていけばいい。お先真っ暗だ。

 …というわけでスコットランド、グラスゴーを舞台にした『天使の分け前』はいかにもケン・ローチらしい主人公像になっている。ところが、作品から受ける印象はいつもとはちょいと違う。現実をとことん追いかけて、希望を木っ端微塵に打ち砕くような、頭でっかちなことはなされない。意外や、喜劇色が強いのだ。冒頭、無人駅での迷惑行為場面から笑いがふんだんに意識されている。それどころか、光まで見える。それで良いのか、ローチ!

 良いのだ、もちろん。喜劇色が強いと言っても、ローチが生きていく辛さを忘れるようなことをするわけがない。主人公が起こした事件が回想される場面では、大いに気分が悪くなる。もがけばもがくほど泥沼にハマッていく人生の過酷さも身に沁みる。喜劇色が濃くなっても、負の要素は常に見え隠れしている。笑いが弾けると、その厳しさがより鮮明になると言っても良い。

 物語が明るくなったのは、主人公の人生の指南役になる社会奉仕活動の指導員の存在が大きい。レンガか何かで殴られたような怖い顔の奥にある心の優しさを隠せない人。主人公にとって何がいちばん大切なのか、道筋に僅かな明かりを灯していく。ちょっと良い人過ぎるのではないかと思いつつ、ジョン・ヘンショウが漂わせる情感に惚れ惚れする。青年を取り囲む社会奉仕仲間も皆良い味だ。彼らの気の良い悪の魅力が深刻さを少しずつ消していく。寂寥感が美しい町で、指導員も仲間たちも、なんだかいつもほろ酔い風だ。

 …と、そう、ウイスキーが重要なモチーフとして出てくる。皆で蒸留所に出かける場面が良い気分だ。ウイスキーが作られる過程。ブラインド・テイスティング。コレクターの執念。高額ウイスキー。タイトルになっている“天使の分け前”の意味するところも紹介され、それが後半に繋がっていくあたり、娯楽的にも鮮やかだ。

 ほろ酔いはローチに伝染する。クライマックスで魔法のカードを切るのだ。よくよく考えれば、主人公は新しい人生のスタートラインに立ったに過ぎない。けれど、それだけがいかに難しいことかをローチは知っている。ウイスキー通をからかいながら、でも恩人への感謝は忘れず、そして前を向いた先には嘘臭さのない希望が感じられる。とても心地良い。

 主人公を演じたポール・ブラニガンは全くの素人とのことだけれど、なるほどそれが功を奏している。演技に色がついていない。経験を積んだ役者ならば、もっと映画的な芝居を見せるところで、ブラニガンは表情を無意識に抑えている。これが主人公の足場の不安定さを生々しく見せる。小柄な身体と瑛太もびっくりの大きな耳がダイナミックに動く。主人公の幸せを心から願う自分に気づく。





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