リンカーン

リンカーン “Lincoln”

監督:スティーヴン・スピルバーグ

出演:ダニエル・デイ=ルイス、トミー・リー・ジョーンズ、サリー・フィールド、
   ジョセフ・ゴードン=レヴィット、デヴィッド・ストラザーン、
   ジェームズ・スペイダー、ハル・ホルブルック、ジョン・ホークス、
   ジャッキー・アール・ヘイリー、ブルース・マッギル、ジョセフ・クロス、
   ティム・ブレイク・ネルソン、ジャレッド・ハリス、リー・ペイス、
   グロリア・リューベン、マイケル・スタルバーグ、ルーカス・ハース、
   デヴィッド・オイェロウォ、S・エパサ・マーカーソン

評価:★★★




 エイブラハム・リンカーンと言えば、第16代アメリカ合衆国大統領だ。今なお、最も愛されているリーダーと言われる。『リンカーン』は彼を主人公に置いた史劇で、となると警戒心が働くのも仕方がないだろう。歴史に名を刻む、知らぬ者がいない偉大なリーダー。その功績を並べ立てたり、美談集としてまとめ上げたり、偉人を不自然なほどに崇めたり…危険な罠はごろごろ見受けられる。

 スティーヴン・スピルバーグ監督は罠を切り抜ける。いや、偉人伝の沼に僅かにハマったように思われもするのだけれど、そのままずるずると引きずり込まれるようなことにはならない。伝記映画にしなかったのが正解だ。晩年の大仕事である奴隷制度の廃止の中でも、合衆国憲法修正第13条の可決に向けての攻防に絞ることで、物語を引き締めている。

 結果として修正第13条が可決されたことは知られている。愚かな監督なら、その実現の原動力を「理想」に求めたかもしれない。スピルバーグが描き出すリンカーンももちろん「理想」は持っているものの、それだけで議会を突破できるなどとは考えていない。甘い人物像になっていないのが良い。ここでのリンカーンは実にしたたかだ。票の獲得のためには裏で手を回すことも厭わない。何が最善かを考え、そのためには時に「偉人」からは堂々と外れる。感傷や同情は不敵に排除する。その上でスピルバーグは問い掛ける。リーダーとは何か。

 議会工作の件は血が流れない戦場のようだ。それぞれの思惑に沿って動く者たちが一票のために激論を交わす。一見取っ付き難い題材を咀嚼し、スリルたっぷりのセリフに仕立て上げる脚本の妙。言葉が銃弾となって、敵方を撃ち抜いていく。その繰り返しだと苦しいとばかりに、ロビイスト軍団を投入することで笑いを盛り込むところは、なるほどスピルバーグらしい手際の良さだ。そうしたスピルバーグの技の数々が結実する投票場面は、分かっていても手に汗握る。

 スピルバーグの巧さは冒頭から明らかだ。南北戦争の現実を映し出した後、いよいよリンカーンが登場する。後ろから撮るばかりでなかなか正面からは見せない。そのくせ見せるときは実にあっさり。あぁ、リンカーンがいると思う。黒人、白人、それぞれとの掛け合いだけでもリンカーンの人となりを悟らせる。この映画ではあの有名なゲティスバーグの演説は使われない。けれど実はこの場面で、黒人兵士にその内容をさらりと喋らせる。そのスマートさよ。

 断わるまでもなく、役者は素晴らしい。メイキャップの力も借りて、ダニエル・デイ=ルイスがリンカーンそのものとなる。茶目っ気を覗かせるときの軽妙な振る舞いを含め、堂々たる大芝居。演劇的要素の強いそれでありながら、まるで臭くない。長男とのやりとりこそ取ってつけたようだけれど、妻や四男との関係で見せる人間臭さが意外なほど新鮮に感じられるのはデイ=ルイスゆえに違いない。奴隷解放急進派のタデウス・スティーヴンス議員役のトミー・リー・ジョーンズのサビの効いた存在感も特筆に価する。

 名手ヤヌス・カミンスキーによる画面の色合いも美しい。光の捉え方が冴えていて、不思議な穏やかさがいっぱいに広がっている。

 子どもの頃からリンカーンに対して抱いていたもやもやに触れられなかったのは多少気にかかる。黒人解放に向けて尽力を尽くしたリンカーンが、ネイティヴ・アメリカンに対しては徹底して排除の姿勢を保ったことを知ったときはショックだった。それには全く触れられない。リーダーの在り方を問い掛ける物語には不要だったと考えるべきなのだろう。





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