偽りなき者

偽りなき者 “Jagten”

監督:トマス・ヴィンターベア

出演:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、
   アニタ・ヴィタコプ、ラセ・フォーゲルストラム、スーセ・ウォルド、
   ラース・ランゼ、アレクサンドラ・ラパポルト

評価:★★★




 久しぶりに強烈な不快感を感じる。人という生き物はここまで愚かなのだろうかと頭を掻き毟る。デンマークの寂しげな町、ひとりの少女が作り話をする。ある男の人に勃ち上がった性器を見せられたという。いや、そんな直接的な言い方ではない。けれど、それを連想させる話だったことは間違いない。幼稚園の園長はそれを信じ込む。斯くして、そこで働く中年男が生き地獄へと突き落とされる。

 主人公はあまりにも哀れな仕打ちを受ける。それを仕掛ける側の言動があまりにも短絡的で、そのくせ陰惨だ。しかし、よくよく考えれば、いや考えなくても同類の輩など身近なところにうようよ潜んでいる。もしかしたら己もそうなる可能性がないとも言えない。奴等は目の前に見えるものを何も考えることなく受け入れ、あたかもそれこそが正義だと振りかざすことに躊躇いがない。もちろん自覚はしていない。

 子どもは嘘をつかない。なんてバカバカしい思い込みだろう。が、それに通じる偏見は本当に多い。障害者への拝跪。特定の国への中傷。宗教への絶対的忠誠。理想を根拠にした差別。偏見が、それと気づかないまま、暴力に変貌を遂げていく。集団ヒステリーを生み出す。

 『偽りなき者』はその過程を克明に綴っている。何がきっかけで、何が火をつけ、何がそれを大火へと燃え盛らせていくのか。この映画で言えば、少女を「誘導」尋問する男が拙かった。観る側に主人公の無実が明らかにされているのは、作り手が偏見が肉体的・精神的暴力へ化けていくところに、ポイントを置いたからだ。賢明な判断だ。

 中傷が激しくなる。退屈な正義が蔓延する。寛容は見つけるのが困難だ。北欧の冷たい空気が絡みつく。それでも誇り高い佇まいを崩さない主人公に苛立ちと尊敬の念を覚える。ここが急所だ。耐えられないのであれば町から出れば良い。居場所がないのなら家でひっそり息を潜めていれば良い。しかし、男は決して背筋を曲げない。諦観の境地とは違う、ある種の崇高さが漂い始める。マッツ・ミケルセンの眼差しが効いている。

 主人公を支えているのは、間違ったことはしていないという誇りと、僅かな支援者だ。その中に長年の友人がいないのが寂しい。それが終幕、急な展開を迎える。それまでの厳しい視線を考えると、安易な方向に走ったかと落胆し掛けるも、そうではないことに気づく。ラストシーンでは突然ギョッとする音が鳴り響く。救いが見える中に、それでも何かが変わってしまい、以前のようには決して戻れない寂しさが立ち込める。人間の愚かさが決して消えることはない。現実的かつ核心を突いた結末だと思う。





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