愛、アムール

愛、アムール “Amour”

監督:ミヒャエル・ハネケ

出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ、
   イザベル・ユペール、アレクサンドル・タロー、
   ウィリアム・シメル、ラモン・アジーレ、リタ・ブランコ

評価:★★★




 ここに来てミヒャエル・ハネケが変わってきた。「白いリボン」(09年)では登場人物たちと同じ目の高さにまで降りてきていたけれど、『愛、アムール』は視線を下げた程度の話ではない。まるで自分の話を語るように、物語の細部に入り込んでいる。登場人物の細胞のひとつとして存在しているような気配すらある。

 妻が病に倒れたことにより、悠々自適で幸せな老後生活が一変する夫婦の物語。年齢は80歳を超えているだろう。夢見ることで過酷な状況を突破するようなことをハネケは許さない。夫婦は極めて現実的な問題に直面する。あまりにもシビアに描かれるそれは、確かにハネケ映画の匂いがある。けれど、ここがこれまでと較べて異質なのだけど、それこそそこに愛がある。アムールがある。

 …と言っても惚れた腫れたレヴェルのそれなんかではない。介護という長く生きれば避けられないそれに、死ぬ思いでぶつかって、砕け散って、風に吹かれて、その先の、ずっと向こうにある愛。

 電動車椅子。介護用ベッド。点滴。おむつ。目に見える新たな環境の変化はもちろん、次第にできないことが増えていく苦しさや、意思の疎通が困難になる哀しさ、打つ手がないときの悔しさが静かに浮上する。体力も腕力も忍耐力も必要とされる。夫は言う。「心配なんか、何の役にも立たない」。冷たく聞こえても、真実だ。

 ハネケは苦闘する夫婦の姿を見つめながら、人間の尊厳だとか生きる意味だとか無償の奉仕だとか、奇麗事に着地しそうなポイントを巧みに避ける。ハネケにとっては多分、それは逃げにしか映らないのだろう。だからこその冷徹さであり、それゆえのあのラストシーンなのだ。ハネケの見せる愛は、人間を知っている人の愛だ。

 演出はミニマムにして、実に力強い。ほとんど動かないのに雄弁な撮影。本筋と関係ないように見えて、時に意外な表情を浮かべる会話。俳優たちの動きの隅々までもを観察するような絶妙の距離感。

 とりわけ今回は、役者の演技を丁寧に追っている。身体が利かなくなる妻と、それを懸命に支える夫の、決して以心伝心とはならない掛け合いの中に、夫婦でしか醸し出すことのできない空気を見逃さない。エマニュエル・リヴァとジャン=ルイ・トランティニャンでなければ捉えられない現実感に恐ろしく迫力がある。残酷で、容赦なくて、苛烈で…。しかし、不思議な穏やかさに包まれる。熱くも冷たくも暖かくも温くもない。奇妙な温度だ。





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