ウェイバック 脱出6500km

ウェイバック 脱出6500km “The Way Back”

監督:ピーター・ウィアー

出演:ジム・スタージェス、エド・ハリス、
   シアーシャ・ローナン、コリン・ファレル、マーク・ストロング、
   グスタフ・スカルスガルド、アレクサンドル・ポトチェアン、
   セバスチャン・アーツェンドウスキ、ドラゴス・ブクル

評価:★★★




 ただ、ひたすらに歩き続ける映画だ。シベリア収容所からの脱走を試みる6人の男たちの旅路。西に行けばソ連の領土を横断しなければならない。東に行けば太平洋に出てしまう。それならば南へ行くしかない。国境まで1,000キロ。辿り着いたとして、でもそこは通過点でしかない。ソ連、モンゴル、中国、チベット、そしてインドへ。ただ歩き続ける、それだけなのに、心がざわざわする。

 いちばんの見ものが生にしがみつく男たちのサヴァイヴァル術にあることは間違いない。木の皮で作る顔面マスク。雪を使ったシラミ退治。木の枝による風除け。草やコケによる方向判断。オオカミの餌の横取り。蚊の襲来とのそれを防ぐ術。蜃気楼。砂嵐。あまりにも美しい星空。ナチスから逃れる追跡劇の趣は最初だけで、男たちが立ち向かわなければならないのは、自然の脅威だ。

 撮影が素晴らしい。ラッセル・ボイドの撮影が自然と人間の対比を際立たせる。その上ピーター・ウィアー監督はオールロケを敢行している。俳優たちが実際に大自然の中に放り込まれ、本当に精神的・肉体的過酷さに立ち向かっているように見える。当然その表情には迫力が宿る。自然も負けじと存在感を見せる。

 ウィアーは徹底した現実感を織り上げながら、しかしそこに詩情を注ぐことのできる監督で、ここでもそれを証明する。男たちの懸命な姿。襲い来る吹雪と灼熱。その旅が次第に神聖なものに見えてくる。生きるとは何なのだろう。死するとき、その先には何があるのだろう。答えの出ない人生観が絡みつく。

 男たちの旅に途中、一人の少女が入り込む。画面にメルヘンめいた匂いが立ち込める。寓話の方向に逃げるのはやめて欲しい。そう思ったところで、案外したたかな少女の姿が見えてくるのが巧い。少々シアーシャ・ローナンが小奇麗過ぎるのは難だが…。

 旅を引っ張るのはジム・スタージェスだ。ぼんぼん風の顔立ちの中に、知性を感じさせて悪くない。悪人面の俳優が多い中で、ホッとする外見の持ち主でもある。その彼に「優しさは身を滅ぼす」と言ってのける男を演じるのはエド・ハリス。出てくるだけで頼もしいとは、ハリスのような存在感を持った人のことを言う。ほとんどおじいちゃんのような年齢になったけれど、ここは敢えて兄貴とお呼びしたい。

 ハリスと、スタージェス、ローナンの間に父と息子・娘に似た感情が芽生える件は、成功半分・失敗半分と言ったところか。ウィアーはセリフで語らず映像で見せる。その節度に嬉しくなる一方、それすら邪魔に感じられる清冽な映画の水を求めたくなるのだ。

 『ウェイバック 脱出6500km』のクライマックス、生き残った者たちはようやく安心な場所に辿り着く。暖かくなる季節になるまで休むと良いとまで言われる。それなのに、スタージェスはさらなる先を目指す。彼は言う。「前に進まなければ、動けなくなる」。このセリフに真実味を与えられたことは、ウィアーの勝利を意味するのではないか。





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