フライト

フライト “Flight”

監督:ロバート・ゼメキス

出演:デンゼル・ワシントン、ドン・チードル、ケリー・ライリー、
   ジョン・グッドマン、ブルース・グリーンウッド、メリッサ・レオ、
   ブライアン・ゲラティ、タマラ・チュニー、ナディーン・ヴェラスケス、
   ジェームズ・バッジ・デイル、ガーセル・ボヴェイ

評価:★★★




 序盤の見せ場はもちろん、旅客機の墜落場面になる。オーランドからアトランタに向けて出発した旅客機が突如制御不能となり、急降下を始める。車輪を出す。燃料を捨てる。考え得る手を次々繰り出すものの、高度は上がらない。そこで機長は機体を上下逆さまにしてバランスを保つ策に出る。ロバート・ゼメキスが得意のアクション場面のリズムを大胆に活用。見事な緊迫感を作り出している。背面飛行の画から言いようのない不安感が溢れ出す。

 …とは言え、この描写は『フライト』の掴みに過ぎない。本当のドラマは後に起こる。血液検査の結果、機長の身体から基準値を大幅に超えるアルコールが検出されるのだ。多くの乗客を救った機長は、英雄なのか、それとも…というのがストーリーだ。ここで注目すべきは墜落時の機長の判断力と決断力、そして実行力がしっかり見せられている点で、つまりそれは技術的には素晴らしい人物だと分かっていることを意味する。ゼメキスが揺さぶるのは、英雄である彼の責任の先にある、心の弱さということだ。ゼメキスは冒頭、さり気なく機長のアルコール摂取場面を見せる。退院後、農場でアルコールを次々棄てるという不可解な行動も見せる。彼をどう捉えたら良いのか不安になる。

 機長を演じるデンゼル・ワシントンが、離陸時、旅客機が突入した雲のように灰色な部分のある人物像を繊細に見せる。一見誠実でありながら、一時は英雄として讃えられながら、しかしいつしか自分に負けていく男の心の弱さを恐れることなく見せる。アルコール依存症の症状が前面に出た演技もさることながら、心の弱さを大袈裟になることなくちらつかせる、派手さのない場面が素晴らしい。

 葬式場面で同僚のキャビン・アテンダントに偽証を頼み込むときの表情。離れたところに暮らす元妻と息子に再会したときの強引な態度。同じ問題を抱えた女との関係がぎくしゃくしていく過程。作品のテーマが心の弱さにあり、そしてそれに負けることのない強さであることを理解した演技だ。

 けれどゼメキスはと言うと、そうしたワシントンの演技に頼るばかりで、アルコール依存症そのものを見せる方向にふらついてしまうから危なっかしい。アル中患者がどういう振る舞いをするのか、どんな態度に出るのか、どうやって克服するべきなのか。ワシントンの演技がなければ難病物語に見えてしまったかもしれない。

 主人公以外の人物に多面性が感じられないのも気になるところだ。グレイゾーンを歩むワシントンを取り囲む人間たちは皆大変分かりやすい性質で固められている。手を差し伸べる者。危険な道に誘い込む者。強い意志で今度こそ再起を図ろうとする者。情をきっぱり離して物事を考える者。信仰に厚く生きる者。まるでワシントンの灰色を際立たせるためだけに動いているように見える。ロボットのようだ。

 それでもジョン・グッドマンの登場は楽しい。危険で緊張感があって、でも楽しい。グッドマンが出てくるのは二場面しかない。それにも関わらず強い印象を残すのは、思わず頼りたくなる陽の個性の上にその危うさを発散しているからだ。笑いながら、陽気に振る舞いながら、その実、その笑顔は暗い闇に通じている。グッドマンが見せる明るさには影が付きまとっている。そしてワシントンと同じように、彼もまたアメリカの姿なのだろう。





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