世界にひとつのプレイブック

世界にひとつのプレイブック “Silver Linings Playbook”

監督:デヴィッド・O・ラッセル

出演:ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、
   ロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーヴァー、クリス・タッカー、
   アヌパム・カー、ジョン・オーティス、シェー・ウィガム、
   ジュリア・スタイルズ、ポール・ハーマン、ダッシュ・ミホーク

評価:★★★★




 これはかなり際どい。パットは妻の浮気相手に襲い掛かったことで入っていた精神病院を退院したばかりだ。ティファニーは夫を亡くしたショックで11人の同僚とベッドを共にして会社を首になる。つまりふたりは心を病んでいる。右に転べば哀れな男女のラヴストーリーになっていただろう。左に転べばその普通ではない心象を見世物にした破廉恥なコメディになっていただろう。デヴィッド・O・ラッセルはそのギリギリのところを突っ切る勇気を見せる。

 主人公男女の危うい人物設定に吸い寄せられるように、画面の隅々までユニークな光景が広がっている。パットとティファニーの言葉は明け透けだ。掛け合いは肌に直接突き刺さる。周りに潜む人々もクセが強い。突飛な行動の数々は予測不能の展開に繋がる。アメリカン・フットボールの賭けやダンスコンテストが思いがけない小波を起こす。愛は迷走を極める。

 ラッセルが際どい地点にこだわったのは、そこに生きていく上での何がしかの真実を見つけているからだろう。パットもティファニーも世間で言うところの、人生のレールからは激しく脱線している。それを恐れながら、それでも彼らは脱線した状態を維持したままに前に向かう。自分を捨てるよりも、そのままの自分を選ぶ。

 ラッセルはその姿に哀しみとおかしみを見つける。愛する人や周りの人に受け入れられない寂しさ。慎重を喫しても思い通りにはいかないもどかしさ。それらが人生の悲哀や滑稽さと密着する。その道筋は決して見落とされない。ジタバタに笑って笑って、でもいつしか小さな希望が見えてくる。

 それをダンスに象徴させるのが実に巧みだ。素人のふたりだからプロのそれに較べると明らかに見劣りする。しかし、その懸命さが、素直さが、いじらしさが…あぁ、なんとまあ、可笑しくて可笑しくて、でもちょっとだけ胸を打つ。

 パット役のブラッドリー・クーパーがこれまで培ってきたコメディの間をドラマティックな演技に持ち込んで、新境地を見せる。言葉の畳み掛けや不安定な言動がもたらすサスペンスも見事に物にしている。グレイのオッサンジャージの上から着たゴミ袋ポンチョが似合い過ぎだ。クーパーの父を演じるロバート・デ・ニーロが久しぶりに見せる情感や、母を演じるジャッキー・ウィーヴァーのほとんど置物的愛らしさと可笑しさも素晴らしい。兄や友人、患者仲間や精神科医も皆、血の通った人間として浮上する。

 しかし、何と言ってもティファニーに扮したジェニファー・ローレンスに目が釘付けになる。夫を亡くして心のバランスを崩し、ぶっ飛んだ言動で周囲をかき乱す役柄は、クーパー以上に難しい技を強いられる。パットと同じ心の危うさを感じさせ、そして登場した瞬間に彼の心を掴み、彼が頑なに保持する空間でもリードし、しかしいつしか自分の弱さに向き合わざるを得なくなる。ローレンスはティファニーの心の起伏を、あまりにも鮮やかに魅せる。パットの家に乗り込んでそこにいる人々を言い負かす場面など、この年齢でそれに説得力を持たせられる女優が他にいるだろうか。

 パットとティファニーは所謂「痛い」ふたりなのかもしれない。ラッセルはそれを魅力的に魅せる術に長けている。格好のつかないおかしな振る舞いをありのままに映し出し、しかしそれを笑うだけではなく、愛情を注ぐ。『世界にひとつのプレイブック』が気持ち良いのはそのおかげだ。





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