ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日 “Life of Pi”

監督:アン・リー

出演:スラージ・シャルマ、イルファン・カーン、アディル・フセイン、
   タッブー、レイフ・スポール、ジェラール・ドパルデュー

評価:★★★




 インド人少年のパイは太平洋を横断中、大嵐に遭遇し乗っていた貨物船が転覆する。命辛々救命ボートにしがみつくパイを待っていたのは、ボートに隠れ潜んでいた一匹のトラとの長い長い漂流生活だった。…と書くと、パイとトラが仲良しこよしになり、助け合って生き延びる話なのかと想像してしまうけれど、そういう生温いファミリー描写はなされない。パイは幼少時、父親から言い聞かされる。「トラは友達じゃない。猛獣だ」。

 小さなボートの上でトラと一緒にサヴァイヴァルだなんて、これ以上ない過酷な状況だ。一瞬でも気を抜けばトラのエサとなるだろう。僅かでも油断すれば大自然に殺されるだろう。少年は大海で彷徨う。世界に直面する。迷路に迷い込む。脱出は不可能に近い。『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』は少年の人生の断片に大胆に切り込んでいく。

 まず見ものになるのは、パイが精一杯の知恵を注ぐサヴァイヴァル術だ。ボートに積み込まれていた食料の確保。僅かな救命道具を用いた即席のいかだ作り。ビスケットを用いた魚釣り。トラの慣らし方。雨に晒され、風を喰らい、直射日光に焼かれながらパイはそれでも生を諦めない。ひょろひょろの少年がみるみる逞しくなっていくのが楽しい。目の力が強くなる。髪は荒れ放題に伸びる。でも髭は生えない。パイはまだ16だから。

 アン・リーはパイの冒険を詩的に撮り上げる。クラゲが青白く光る夜のクジラと遭遇。黄金色に輝く夕暮れの凪。トビウオの群れの来襲。ミーアキャットが棲息する謎の島。海という名の宇宙が魅せる幻想。目指したのは神話性だろう。俄かには信じ難い冒険談に漂う神秘の匂い。画面に謎めいた詩情を注ぎたかったのだ。3D映像はこのためにあるとばかりに意識され、視覚効果もふんだんに盛り込まれる。

 はっきり言って、かなり際どいところだ。作り物っぽさが強調され、物語全体が嘘臭く見える危険を秘めている。手放しで美しいと讃えるのも違う気がする。けれど、それをなんとか乗り切る。話そのものが持つ力と画面作りの面白さにより、安っぽい映像美に終わるギリギリの境界で、パイへの敬意を勝ち取る。例えばこの映画では、いかだに乗ったパイを手前に、ボートに乗ったトラを後ろに捉えたショットが何度か出てくる。それだけの構図なのに、詩情が揺らめく。

 物語の鍵はやはり、トラが握る。名前がリチャード・パーカーなのがたまらなく可笑しい。彼とは友達になれない。しかし、パイは彼がいなければ生き残ることはできなかっただろう。トラへの緊張が生存能力と密接に結びついていくあたりが、説得力を持って描かれていく。少年は何度も神に語り掛ける。いつしか、リチャード・パーカーが神の使いに見えてくる。いや、パイと一心同体に見えてくる。

 …と、そこで辿り着く結末が、なかなか気が利いた切り上げになっている。「物語」というものについて考えさせられる。おそらくパイとリチャード・パーカーの冒険に入り込んでいた者ほど快感が大きいのではないか。パイの冒険が一層輝いて見えるかもしれない。冒険が違う表情へと変わり、再び、生きる光に包まれる。





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