思秋期

思秋期 “Tyrannosaur”

監督:パディ・コンシダイン

出演:ピーター・ミュラン、オリヴィア・コールマン、エディ・マーサン

評価:★★★




 主演は地味を極めるピーター・ミュランとオリヴィア・コールマン。岩崎宏美は出てこないのに邦題は『思秋期』。俳優が監督していると言っても、パディ・コンシダインは「スター」という言葉とは無縁のキャラクターアクター。物語は暗く沈み、目を背けたくなる描写も多い。全く、容赦なく、ストレートに重い気分を誘われる。

 原題は『Tyrannosaur』。ミュランが演じる男は「ティラノサウルス」は死んだ妻のあだ名だと言う。ティラノとはもちろん、白亜紀を代表する獰猛な肉食恐竜。酒浸りで、怒りのコントロールができず、感情を全て外にぶつけるミュランが内に飼っているもの…というのが本当のところだ。ティラノなミュランはいきなり、飼い犬を蹴り殺す。むしゃくしゃしていたときに目の前にいたからという以上の理由はない。最低だ。

 ところがこの最低ティラノ、そんな自分を恥じてもいるのが厄介だ。暴力の後はいつも、ティラノに強烈な悔恨が襲い掛かる。ミュランの起用がここで効いてくる。暴力を叩きつけるだけなら並の役者でもできようが、そこに男の弱さを陰影と共に滑り込ませる技は容易ではない。

 ひょっとするとミュランは、役作りに本当にティラノサウスを参考にしているかもしれない。前のめりの歩き方。その際の手の動き。目にはティラノの鋭さが宿る。コンシダインも意識しているように見える。チャリティショップの洋服コーナーに隠れるときの撮り方。服の揺れ方に笑う。

 コンシダインはティラノに信仰心の厚い聖女を出会わせる。彼女にも言葉の暴力を浴びせ掛けるティラノ。しかし、何度か顔を合わせるにつれ、いつしかティラノの心が優しい水に満たされて…と行かないところが、まあ、何とも生々しい。女もまた、結婚生活の中に深い闇を抱えている。自分ひとりでは解決できない、ティラノより難しい状況だ。コールマンの演技には奥行きがある。闇が見えてきてからの笑い顔が忘れられない。

 …すると、実はこのふたり、決して重なることのない、重ねるべきではない運命の下に生まれてきたように思える。なのにこれが人生の不思議、妙にしっくり来るから面白い。暴力に塗れた男と、信仰に逃げるしかできない女。孤独な魂は、ただ寄り添い合うだけだ。でも、寄り添う合うだけで、救われることがある。

 ある事実が発覚してからの流れが、手紙を読み上げる形でナレーションで処理されるのは乱暴に感じる。ふたりの決意をじっくり見せても良かったのではないか。隣家のエピソードも含めて、やや急ぎ足ですんなりまとめてしまった気がした。





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