ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女

ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女 “Game Change”

監督:ジェイ・ローチ

出演:ジュリアン・ムーア、ウッディ・ハレルソン、エド・ハリス、
   ピーター・マクニコル、サラ・ポールソン、ロン・リヴィングストン、
   ジェイミー・シェリダン、ブルース・アルトマン、コルビー・フレンチ

評価:★★★




 2008年のアメリカ合衆国大統領選の主人公はもちろん、民主党バラク・オバマだ。しかしもうひとり、強烈な印象を残した人物がいる。共和党ジョン・マケインではない。彼が副大統領候補として選んだサラ・ペイリンがその人物だ。…なんて紹介も必要ないだろう。それぐらいペイリンはインパクトがあった。素晴らしく魅力的だったからではない。その無知の数々が人々の脳裏に彼女の姿を焼き付けた。

 『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』はペイリンを主人公にしているのだから、暴かれた無知の数々を描かないわけにはいかない。英国の政治的トップが女王だと信じていたり、ドイツの位置を知らなかったり、息子が戦地に趣いているのにイラク戦争の動機すら答えられない。知識がないというより常識に欠ける。ペイリンが無知を晒す度に笑ってしまう。中学生でも答えられるだろう。けれど同時に、怖くもなる。寒気を覚える。彼女が本当に副大統領になる可能性があったのだ。

 ペイリンの姿を通してアメリカの選挙制度の問題点が見えてくる。リアリティショウという言葉も飛び出すように、良くも悪くも選挙がエンターテイメントになっている。思わず「ハンガー・ゲーム」(12年)を思い出す。何しろオバマのカリスマ性に対抗するためのペイリン抜擢の理由が、女性票を見込んでの見映えの良さというのだもの。共和党の選挙チームは通常ならば4週から8週かけて行う身辺調査をたったの5日で済ませる。ペイリンに本音を言う人物がいないことも含め、ペイリンはある意味、犠牲者でもある。

 ペイリンが「スター」に飾り立てられる過程は見ものだ。スタイリストがつき、衣装に金がかけられ、メイクは好感度の高いものになる。スピーチの訓練やヴォイストレーニングがなされる。もちろん様々な知識が詰め込まれる。どんな質問にも答えられるよう、準備は念入りになされる。ペイリンはしかし、どれだけ努力しても上手く自分を見せられない。国民に、世界に笑われてしまう。そこでチームが記憶力に賭ける作戦に出るのがシニカルだ。スピーチ自体は上手く、しかも記憶力は抜群ゆえ、事前に予想される大量の答えを丸暗記する。付け焼刃のそれが、しかも功を奏して討論会で成功する。

 ペイリンの人物像が面白い。自分に自信を持っている。己の信念は決して曲げない。しかし、打たれ弱くもあり、批判が続くと他人に責任をなすりつける。仕事も放棄気味になる。かと思えば、一度成功すると調子に乗り、力を過信した言動を連発する。ペイリンは短い期間の中で、人間という生き物の、良い方向にも悪い方向にも転ぶ怪物性を次々露にしていく。演じるジュリアン・ムーアは、そっくりメイクや仕草(スピーチ時の手の動かし方に注目)の完全コピー以上に、細いような太いようなその神経を繊細に揺らす。

 民主党にも共和党にも肩入れすることのない作りになっているのは結構だけれど、少々ペイリンへの個人攻撃に踏み込み過ぎた嫌いはある。それゆえマケインやスティーヴ・シュミット参謀(ウッディ・ハレルソンが好演)ら共和党が気の毒に思えてしてしまう。ホッケーママとしては合格だったと家族をクッションに置く余裕があるのなら、もう少し違う角度からマケインの敗北を見つめても良かったのではないか。「選挙に行かなかった」ことを女性広報に告白させるほどの責任をペイリンに集中させるのはどうか。

 マケインは敗北する。しかしペイリンは、その理由のひとつが自分にあることを微塵ほども感じていない。そして実際、彼女目当てでマケインに票を入れた者も少なくはないのだ。選挙戦真っ只中、批判・中傷に耐えられず、チームの前で「赤ちゃんに会いたい。赤ちゃんと一緒に寝たい」なんて言ってしまう女なのに…。物語がペイリンの笑顔で終わるのが巧い。





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