アルゴ

アルゴ “Argo”

監督・出演:ベン・アフレック

出演:ブライアン・クランストン、アラン・アーキン、ジョン・グッドマン、
   ヴィクター・ガーバー、テイト・ドノヴァン、クレア・デュヴァル、
   スクート・マクネイリー、ロリー・コクレイン、クリストファー・デナム、
   カイル・チャンドラー、クリス・メッシーナ、ボブ・ガントン、
   リチャード・カインド、ジョン・ボイド、テイラー・シリング

評価:★★★★




 嘘が大きければ大きいほど人は信じやすい。…と言ったのはアドルフ・ヒトラーだけれど、なるほど、本当かもしれない。『アルゴ』の物語からは、それはそれは大きな嘘が飛び出してくる。1979年イラン、テヘランで起きたアメリカ大使館占拠事件。カナダ大使の私邸に匿われた6人の大使館員を国外へ脱出させるため、ハリウッド協力の下、CIA主導により、アメリカが偽の大作映画を撮ってしまうというのだ。大使館員たちを映画クルーに見せかける。そんなバカな!?でも、これが事実だから恐れ入る。

 『アルゴ』とはそのフェイクムービーの名前だ。その細部の創り込みが念入りを極める。本物のメイキャップアーティストと大物映画プロデューサーを引っ張り出し、山ほどある脚本の中からぴったりな題材のものを探し出し、製作発表の会見を行い、業界紙に広告を打つ。フェイクムービーがSF映画というのが、なるほど納得。「スター・ウォーズ」(77年)をきっかけに、ハリウッドはSFブーム。異国の地を表現するのに砂漠の地はベストチョイスだ。主人公のCIAエージェントが「最後の猿の惑星」(73年)からヒントを得るのが可笑しい。大きな嘘が完璧に仕上げられる。

 主演も務めるベン・アフレック監督はしかし、緻密な嘘を積み重ねることで真実が見えてくることも知っている。ここで言う嘘とは、時代描写のことだ。70年代後半の風俗を丁寧に描き出す。髪型や衣服といったファッションはもちろん、電話やテレビ、シュレッダーといった小道具が時代を映し出す。アメリカもイランも今とは明らかに異なる空気をまとっている。エンドクレジットでは当時の写真と映画の場面写真が比較して映し出される。事件の再現の隅々が物語に奥行きを与えている。ドキュメンタリー風だったり70年代風だったり、画面の色合いも見事だ。

 こうした鮮やかなる嘘の数々が緊張感をぐんぐん高めていく。革命防衛隊と称したイラン人たちがアメリカ大使館に雪崩れ込んでくるオープニングから息を呑むシーンが連続する。主人公がイランに足を踏み入れれば、それが途切れることは一切ない。信じられる人間の判断、パスポートの偽造、街中での包囲、アメリカの作戦撤回…。シュレッダーで細切れにされた書類を子どもたちに復元させるという狂気じみたイラン側のしつこさが、タイムリミットの代わりを果たす。次々訪れる難題はしかし、クライマックスの空港内での掛け合い前のオードブルのようなものだ。航空券予約。偽造書類の確保。確認の電話。空港はさながら地雷地帯だ。たとえ飛行機に乗り込んでも、滑走路を走り出しても、空に舞い上がっても、安全は保証されない。

 人を喰ったような事実に真実味を与えた脚本が素晴らしい。そして、それを映像として魅せ切った演出が輪をかけて素晴らしい。アフレックは決して少なくない登場人物を、一切混乱させることなく動かしていく。CIA、ハリウッド、革命防衛隊、大使館員。大きく分けて四つの地点を自在に行き来しながら、物語を滑らかに走らせていく。とりわけ空港内の描写は編集のリズムが快感を生み出す。伏線もさらりと気持ち良く回収されてく。

 事実は小説より奇なり。アフレックがこの史実からサスペンスの旨味を感じ取ったのは間違いない。が、同時に映画という芸術に対する向き合い方にも共感を覚えたのではないかと察する。作戦に協力する映画プロデューサーの口から飛び出してくるのは、映画界に対する皮肉。金を生むことが第一で、それができなければ落ちていくだけ。しかし、それだけが映画の価値ではない。プロデューサーもメイキャップアーティストも映画界を嘆きながら、しかしそれでも映画を愛していることが伝わる描かれ方になっている。アラン・アーキンもジョン・グッドマンもブライアン・クランストンも、そしてもちろんアフレックもそこに強烈に惹かれて演技しているように見える。

 アフレックの人間観もちらつく。いちばん分かりやすいのは、カナダ大使館宅で働く家政婦の動かし方だろうか。観客の人間の見方に揺さぶりをかける。思いがけず、自分を見つめ直す。





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