インセプション

インセプション “Inception”

監督:クリストファー・ノーラン

出演:レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、
   マリオン・コティヤール、エレン・ペイジ、トム・ハーディ、
   キリアン・マーフィ、トム・ベレンジャー、マイケル・ケイン、
   ピート・ポスルスウェイト、ルーカス・ハース

評価:★★★




 はっきりしているのは、クリストファー・ノーラン監督が最も力を注いでいるのが画面作りだということだ。物語の大半が夢の中で進行するのだから当然かもしれない。夢というのは曖昧なもので、変幻自在に変化していくのが常。膨らまそうと思ったらいくらでもそうできる、映像作家の腕の見せ所のような場所だ。とは言え、何でもありにしてしまってはつまらない。ちゃんとそこに法則があって初めて面白くなるのがミソ。登場人物はそういう夢の中で、しかもそれをコントロールしようとする。何とも大胆不敵な設定。

 「マトリックス」(99年)を連想もするけれど、それよりも騙し絵を立体化したような映像だ。一見普通の現実世界なのに、どこか不可思議。美しいのに、不安を拭えないあの感じ。夢の中ならではの空間で、その表情がどんどん変わっていく。何が本当なのか判断がつかず、これこそが現実だと思ったら、それもまた夢の中…。これだけでも十分に視覚を刺激するというのに、もっと面白いのはその夢の世界が解体していく描写だ。一旦綻びが出てから、それが雪崩のごとく崩れ落ちていく過程の艶が素晴らしい。時間が乱れ、重力が乱れ、その世界そのものが消えていく。破壊の快感のようなものが濃厚に漂う。

 ノーランは夢境を創造するために、美術と視覚効果を効果的に配置、さらには適材適所に置いた俳優の演技によりコクを深いものにしている。ただ、最も重要な役割を果たしているのは、編集だと思う。現実場面から独特の編集リズムを持っているのだけれど、夢に突入するといよいよそのリズムが前面に出てくる。省略の仕方が意表を突いていて、鋭い。余白のとり方が巧みと言い換えても良い。スティーヴン・スピルバーグのように物語の説明を簡潔に済ませる編集とは違って、編集そのものがもっと前面で自己主張するような不思議な感触がある。特に何層も深く潜り込んでいった夢の中でそれぞれの時間に追われる件の編集には唸る。

 …そんなわけで面白いか面白くないかと言ったら、間違いなく面白い。ただ、心に残るのはあくまで映像であり、物語ではない。そのせいだろう、虚しさが付きまとうのも事実だ。ここでの主役は人間ではなく映像だ。人間はあくまでこの映像世界を形成するコマでしかない。ヒース・レジャーのジョーカーにより操られていた「ダークナイト」(08年)のゴッサムシティとの決定的な差がここにある。

 いや、レオナルド・ディカプリオは相変わらず達者だし、ジョセフ・ゴードン=レヴィットのあまりにも綺麗な身のこなしは見応え十分だ(場面によってはディカプリオを喰っている)。マリオン・コティヤールは美しいし、エレン・ペイジも的確。トム・ハーディはユーモラスだし、渡辺謙も「バットマン ビギンズ」(05年)よりは良い扱いになっている。それなのに人間を観ている気が全然しない。ノーランの注目が別に逸れているからだ。

 多分『インセプション』は映画に人間を求めている人には不向きな作品だ。夢の世界に縛られてしまい、感情がほとんど動かない。面白いのに拭い去れない虚しさ。観終わった直後にあった興奮が急速に萎んでいくのに気づく。





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