WIN WIN/ダメ男とダメ少年の最高の日々

WIN WIN/ダメ男とダメ少年の最高の日々 “Win Win”

監督:トーマス・マッカーシー

出演:ポール・ジャマッティ、エイミー・ライアン、アレックス・シェイファー、
   ボビー・カナヴェイル、ジェフリー・タンバー、バート・ヤング、
   メラニー・リンスキー、デヴィッド・トンプソン、マーゴ・マーティンデイル

評価:★★★★




 パッと見ただけでポール・ジャマッティをカッコ良いと思える人は、世界に5人くらいだろうか。腹は出ているし、髪は常にチリチリだし、その上禿げているし…と一般的価値観から言えば外見は恵まれていない。ところがジャマッティは、どんな役柄もこなす器用な男だ。スポンジのように何でも吸い込み、それを瞬く間に自分の血や肉に変換できる。だからは彼はデキる男にも狡猾な男にもハマる。愚かな男にもにやけた男も問題ない。しかしやっぱり、最も違和感がないのは、『WIN WIN/ダメ男とダメ少年の最高の日々』で演じたフツーの男の役だ。フツーの男のフツーの部分をそのまま体現し、しかも魅せてしまう俳優はなかなかいない。

 作品にはどん詰まりの空気が立ち込めている。ジャマッティ扮する主人公は弁護士として働いてはいるものの、生活は苦しい。事務所のコピー機やパソコンの調子が悪く、便器は詰まっている。配管からは奇怪な音が聞こえる。小遣い稼ぎのためにコーチを務めている高校レスリングチームも弱小だ。ジョギング中、日々のストレスにより過呼吸になってしまうくらいだ。

 こうした冴えない毎日に、ある人物が紛れ込むことで新しい風が吹くというのは、映画においてよく見られる展開だ。事態が好転しそうな気配になりながら、もうひと波乱があり、そして物語は結末を迎える。ただ、ありふれた物語を眺めている印象は受けない。トーマス・マッカーシー監督が、誰しもが持っている心の隙間を優しく埋める空気を大切にしながら、映画の技を繰り出すからだ。日本的に言うと、わびさびが浮上している。

 登場人物が魅力的だ。ここには「勝者」は出てこない。誰もが生きるためにもがいている。それは生死に関わるようなことではない。ただ、息をするのが辛い類のそれだ。そうした彼らは他人と繋がることで、何とか踏ん張りを見せる。この踏ん張りがなかなかしたたかで、小ずるくて、しぶとくて、でも奇妙に温かだ。マッカーシーは「死んでたまるか」と底力を見せる彼らを分析するようなことはしないままに、そっと肩を叩く。

 マッカシーは遊んでいる。どん詰まりの中で踏ん張る彼らから飛び出すセリフのいちいちが可笑しい。「調子はどう?」と聞かれた秘書が「二日酔いよ。彼氏はバカだし」と返す。別れた妻に未練たっぷりの友人は「危ない株には手を出すな。自分の利益だけ考えるんだ」なんてシラっと言ってのける。かと思えば、愛情深く真面目な妻が突然タトゥーを見せる。その件からいきなりボン・ジョヴィの「Have A Nice Day」が流れ出すのに大笑い。

 と言っても、現実は忘れられない。頑張っても金は減っていくばかり。仕事に未来も見えない。母親は自分勝手だ。老いた者は自らの行き場所をなくす。中でもジャマッティの前に現れるレスリング少年が直面する現実には滅入る。せっかく上手くコトが運びかけたと思ったら、本当ならいちばん愛して欲しい人に邪魔をされる。信頼していた人にも落胆する。どうにもならないこともある。それにまつわる翳りが物語の奥行きを深くする。夢は一瞬にして消えてしまうものでもあるのだ。

 ラストシーンの主人公は幸せと言えるのだろうか。どう考えてもオープニングよりも事態は苦しくなっている気がする。それでも彼の顔には笑みが見える。マッカーシーはその理由を探り出している。空虚な日々が表情を変えていく。そのグラデーションは傍から見ても美しい。幸せか否か、ここでは意味をなさない問いに違いない。





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