テイク・ディス・ワルツ

テイク・ディス・ワルツ “Take This Waltz”

監督:サラ・ポーリー

出演:ミシェル・ウィリアムス、セス・ローゲン、ルーク・カービー、
   サラ・シルヴァーマン、ジェニファー・ポドメスキー、ダイアン・ダキーラ

評価:★★★




 満ち足りた結婚生活を送りながら、それでも浮気心が芽生えてしまった女を描いているように見せかけて、どっこいサラ・ポーリー監督がそんな単純な物語を綴るはずがない。女には自分を愛してくれる夫がいる。仕事もある。子どもはいないけれど、不満はない。その彼女の前に、リキシャで稼ぎ気ままに暮らす男が出現する。確かに男女の不倫を描くラヴストーリーの箱を借りているものの、倫理観や道徳心に揺さぶりをかけ、エモーションを刺激しようなどという安さはない。

 『テイク・ディス・ワルツ』はいきなり、オープニングから印象的に展開する。女がキッチンで料理しているところを捉えたに過ぎないというのに、立ち上がるのは虚ろな空気だ。水色のペディキュア。太いオレンジのストライプシャツ。履き崩したミニジーンズ。ポーリーは女をどこか懐かしさを感じさせる色合いの中に封じ込める。光の切り取りが独特であることもあり、その空間は明るい。しかし、どこかが変だ。女の産毛がくっきり見えてしまうほどに。見えなくても良いものまでが見えるほどに。テーマは虚無感だと察しがつく。幸せの傍らに潜む心の空洞が早々とあからさまになる。女は電子レンジの前に座り込む。目は何を見ているのか分からない。

 ポーリーは虚無感を炙り出すため、ミシェル・ウィリアムスの生活感を最大限に利用する。普通にしていても日々の暮らしの匂いを強烈に漂わせるウィリアムスなのに、それこそ産毛が、毛穴が見えてしまうほどに、自分を曝け出していく。その思い切りの良さは見てはいけないものを目撃してしまった不安感に直結する。剥き出しになったウィリアムスは、もはや虚無感を隠しようがない。何という生々しさ。

 ポーリーはウィリアムスが夫以外の男ルーク・カービーとの関係を説明するのにセックスを使わない。正確には直接的なセックス描写を使わない。代わりにウィリアムスはカービーに聞く。どんな風に自分を愛するのかを。目にキスするところから始まり、事細かにウィリアムスにその仔細を語り掛けるカービー。そのときのウィリアムスの表情の変化に見入る。直接的な合体よりも、よっぽど現実感がある。

 そしてこの現実感こそ、ポーリーが意識したもののように思える。ウィリアムスはコービーの胸に自分から飛び込んでいくようなことはしない。しかし、カービーに自分を誘うように仕向ける。この狡さもまた、相当に現実的だ。ウィリアムスの演技には説得力があるけれど、これ以上は演技をしないほうが良い。巧過ぎて、かえって嘘臭くなる一歩手前だ。

 ウィリアムスの演出に目が向かい過ぎたのか、セス・ローゲン扮する夫の描写は不満だ。妻を心から愛しているものの、幸せに慣れきった彼は、彼女の虚ろに気づかない。いくら愛してくれていても、この夫ならば仕方がない。そういう逃げが感じられる。ローゲン独特の我が道を行くキャラクターに寄り掛かっているようにも見える。終幕でようやく、夫に輪郭が与えられる。

 妻がある決断を下した後、一旦沈んだ虚無感が再び膨れ上がる。ここでポーリーは「代償」のカードを切る。虚無感はますます勢力を増す。彼女は再び同じ場所に戻ってきたのだろうか。メリーゴーランドに乗り込んだウィリアムスの複雑な表情が簡単な結末を拒否している。





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