ヴァルハラ・ライジング

ヴァルハラ・ライジング “Valhalla Rising”

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン

出演:マッツ・ミケルセン、マールテン・スティーヴンソン、
   ユアン・スチュワート、ゲイリー・ルイス、アレクサンダー・モートン、
   マシュー・ザヤック、ジェイミー・シーヴェス

評価:★★★




 マッツ・ミケルセン演じる奴隷兵士は少年に、ワン・アイと名づけられる。右目しかないからだ。左目は見えないというより、潰れている。瞼を焼いて閉じたようにただれている。右目の周りには大きな傷がある。ワン・アイは地獄から来たと言われる。しかしむしろ、土の中から生を受けたのではないか。泥の中から指を突き出し、次いで頭を捻り出し、全身傷だらけ血だらけになりながら…なんて絵を簡単に想像する。

 中心人物が自然に密着しているのだ。ニコラス・ウィンディング・レフンが自然描写に力を入れるのも無理はない。岩だらけの山々。泥に塗れ風が吹きつける決闘場。霧に包まれ波のない海。荒涼たる平原。レフンはその静寂を緻密に切り取る。じっくり焦らず、神々しさを湛えた構図に収める。この世界では人も自然の一部だ。しかし多くはそれに逆らう。なんと小さく、愚かしく、哀れな生物。

 そこで繰り広げられる殺戮が生々しいものになるのは当然のことだ。生と生がぶつかり、その片方が死に堕ちていく。美しくなろうはずがない。派手に飛び散る血飛沫や抉られる内臓。鉈や石が容赦なく振り下ろされる殺害方法。直接的な描写もさることながら、音が強烈な印象を残す。骨がしなる音、軋む音、折れる音。皮が剥がれる音、抉られる音、裂ける音。命が苦しむ音、嘆く音、絶え行く音。自然の一部として耳に入り込む。

 レフンの興味は「命」と呼ばれるものにあるのだろう。ここではその装飾が次々剥ぎ取られていく。無垢な魂として生を受け、しかしいつしか汚れを身につけていく人間たち。そこには自分たちなりの解釈があり、信仰があり、理由がある。ところが、どうしてもそれらが欲望と結びつく。大きく膨らむ欲望は危険だ。次々命を落としていく人間たちは、いずれもが無垢を放棄している。ワン・アイは命の象徴のように見える。心の静寂を知る彼を見て、日本の剣豪を思い出すのは強引だろうか。

 『ヴァルハラ・ライジング』の世界は北欧の神話をベースにしているのだという。昨今の映画界は神話ブームだけれど、もちろんレフンはその世界をハリウッド的に染め上げることはしない。あくまで映像で語るところが彼の強みだ。ここでは特に、画面の色合いが心に残る。派手な色は出てこない。大地が生み出した自然の色だけが溢れ、しかもそこに詩情を見る。極力排除されたセリフに代わり(ワン・アイは一言も喋らない)、それにより悟らせる。どれだけ残酷な画が繰り広げられても、どこか心の平穏は乱されないのが不思議なところだ。

 終幕、全てを悟ったかのようなワン・アイは、川原で石を積み上げる。その姿が頭から離れない。遂に自然へと還っていくワン・アイは、喋らずとも、多くを語る男だった。





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