第9地区

第9地区 “District 9”

監督:ニール・ブロムカンプ

出演:シャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ジェイソン・コープ、
   ヴァネッサ・ハイウッド、ナタリー・ボルト、シルヴァン・ストライク、
   ジョン・サムナー、ウィリアム・アレン・ヤング

評価:★★★★




 エイリアンは突然南アフリカ、ヨハネスブルクに現れる。エイリアンは甲殻類を思わせる造形で「エビ」と呼ばれている。エイリアンは身体能力が高く、特に跳躍力が優れている。エイリアンは卵から生まれる。エイリアンはゴムを食べる。エイリアンはキャットフードを好物にしている。エイリアンは人間によって第9地区に隔離され蔑まれている。エイリアンは第9地区から第10地区へ移動させられようとしている。

 …何という斬新な設定だろう。昨今のSF映画というと、どこかで見たような設定、或いは作り込みばかりで新鮮さを受けることはほとんどない。ところがどうだ。『第9地区』で目撃する世界は、これまでのどんな映画にも似ていない。勇敢なオリジナル性を次々と突きつけられ、それに唖然としている間に、先の読めない物語がハイスピードで語られていく。アパルトヘイトを連想させたり、難民キャンプや武器や食料の独占といった社会問題が仄めかされたり、風刺を読み取れる部分も多いのだけれど、それだけに感心しているのは面白くない。感嘆すべきはむしろ、映画作りにおける極基本的なことの数々が、豊潤なコクを伴っていることだろう。

 中でも脚本が素晴らしい。前述のエビちゃんの設定もさることながら、物語そのものが面白い。エビちゃんを移動させるのにMNUという民間企業が絡んでいて、そこにはエビちゃん課というものが存在する。主人公はそこに務める平凡な男で、彼が思いがけずエビちゃんが持っていたある液体を浴びてしまったところから、ノンストップという言葉が相応しいサスペンスが畳み掛けられていく。感心するのは、前半でモキュメンタリー形式で詳しく紹介された世界観の細かな部分が使い捨てにされず、物語を二転三転させる重要な意味を持っていることが分かってくるところだ。例えばエビちゃんが所有していた武器はエビちゃんにしか使えないという事実がさり気なく説明されるのだけれど、これなど極めて重要な使命を持った細部描写である。キャラクターにしてもエビちゃん武器や食料を高値で売りつける闇組織の存在が、予期せぬ衝撃で主人公や企業を撹乱させる。こうした積み重ねが物語に新鮮な空気を持ち込んでいるのだ。

 エビちゃんのグロテスクなヴィジュアルは製作に絡んでいるピーター・ジャクソンの趣味だろうか。VFXによる表現もふんだんに使われているだろうけれど、妙に生々しく、しかもその動きが奇妙に色っぽい。主人公が徐々にエイリアンに近づいていくあたりはデヴィッド・クローネンバーグ監督の名作「ザ・フライ」(86年)のように、恐怖とある種のロマンが感じられる。

 監督はニール・ブロムカンプという人で、これが長編映画デビューだという。独創的という言葉が相応しいディテールを見事なリズムで織り上げているだけでも、類稀なる演出力という他ないのだけれど、いよいよクライマックスで才気煥発、語りの巧みさに魅せられる。宇宙船やメカを使ったアクション描写と共に、絶望と裏切り、そして理解と共鳴が、大変節度ある按排で絡まり合うのだ。全てが適切に飾られて、決して押し付けがましくならない。だからこそ主人公とエビちゃんの最後のやりとりが、ヒューマンな感動を呼ぶのだろう。





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