きっと ここが帰る場所

きっと ここが帰る場所 “This Must Be the Place”

監督:パオロ・ソレンティーノ

出演:ショーン・ペン、フランシス・マクドーマンド、ジャド・ハーシュ、
    イヴ・ヒューソン、ケリー・コンドン、ハリー・ディーン・スタントン、
    ジョイス・ヴァン・パタン、デヴィッド・バーン、オルウェン・フエレ

評価:★★★




 まず、何より先に触れなければならないのは、ショーン・ペンの外見の作り込みだろう。ペンが演じるのは80年代絶頂を極めた元ロックシンガーだ。ヴィジュアルの派手さが重要視されていた時代。白く塗りたくった肌。真っ赤な唇。軽くウェイブのかかった長髪は、彼方此方に爆発している。それから30年、厚化粧でも隠せない老い。とりわけおでこのシワとほうれい線が強烈だ。

 『きっと ここが帰る場所』のペンのヴィジュアルは、化石を思わせるところがある。玉手箱を開けた浦島太郎のように、絶頂時の引退の日から今日まで、一瞬に老けたかのようだ。誰しもが逆らえない時間の流れ。止まっても走っても時は歩みをやめない。ただ、それだけで人生の哀れを誘う。その上、ペンの動きはほとんどおじいちゃんなのだ。ボソボソと聞き取り難い喋り。覚束ない足取り。音を立てるキャリーバッグが杖代わりだ。

 ところがこの男、そういうちょっと感傷にも似た何かを、あっさり吹き飛ばしてしまうから可笑しい。言葉にさらりと毒を滑り込ませるわ、お節介おばさんのように他人の人間関係に首を突っ込むわ、頼まれたら渋々でもそれを引き受けるわ。ちゃっかり株で儲けたり、ピザが好物だったり、ダブリンの豪邸では優雅そのものの隠居ライフ。その身体からは哀愁を漂わせ、そのくせ、したたかに人生をサヴァイヴァルしている。大体妻はあのフランシス・マクドーマンドなのだ。しっかり夫婦関係も持続している。ペンはそういう不思議なところのある男に命を吹き込んでいる。最初こそバケモノ風に見えたヴィジュアルに、愛嬌が浮上し始める。

 その暮らしが変化を迎えるのは、30年間連絡を取っていなかった父の危篤の知らせが入ったからだ。死に目には会えなかったものの、父が生前捜していた、ナチスの残党の行方を追うことになる。もちろんサスペンスはない。調査過程に出会うアメリカの人々(多くは関係者)との何気ないやりとりに漂う、掴み所のないおかしみこそが見ものだ。演出も演技もドラマティックな盛り上がりを拒否する。人間と人間が向き合うことで生まれる、静かな波風を大切にしている。詩情が漂う。

 ふとしたときに心に残る言葉が飛び出す。寂しさと寂しさは相性が悪い。人生の問題は自分が変わってしまうことだ。ペンが音楽をやめた理由を独白する場面も胸に迫る。ペンの形相はホラーのようで、しかしその痛みと哀しみが切実に迫ってくる。積み重ねられていく細部が、主人公のルーツに繋がっていくところが鮮やかだ。

 原題の“This Must Be the Place”はトーキング・ヘッズの同名曲から取られているという。そしてそのトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンが顔を出す。彼のライヴシーンが素晴らしい。背景に映像を流すライヴ演出もさることながら、その美しさを捉えたカメラワークに興奮する。この映画の魅力のひとつはカメラの動きにある。縦の動きに柔軟で、まるで風船が風に吹かれながら、人間たちの滑稽さを眺めているような匂いを感じさせる。それがライヴシーンでも活きている。断わるまでもなく、楽曲は魅力的だ。





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