ラム・ダイアリー

ラム・ダイアリー “The Rum Diary”

監督:ブルース・ロビンソン

出演:ジョニー・デップ、アーロン・エッカート、アンバー・ハード、
   マイケル・リスポリ、リチャード・ジェンキンス、ジョヴァンニ・リビージ、
   アマウリー・ノラスコ、マーシャル・ベル、ビル・スミトロヴィッチ

評価:★★★




 なんだ、普通じゃないか。ハンター・S・トンプソンの自伝的小説をベースにしているというので、どれだけ奇天烈な世界が広がっているのだろうと想像していたのだけど、案外まともなそれで拍子抜けする。若き日のトンプソンが投影された役柄だと思われる主人公にしても、酒浸りという点を除けば、特別な輝きや欠点のあるジャーナリストではない。職を求めてやってきたプエルトリコの新聞社で、ラム酒に塗れながら真のジャーナリスト魂に目覚めていく。かえって心配になる安心感。

 ただし、主人公ポール・ケンプの周りには奇妙な人間が揃っている。気は良いが酒塗れ、トラブルを引き寄せる性質を具えたカメラマン。昼間には滅多に社に顔を出さない、ホームレスのような同僚記者。一発でカツラだと分かる頭で、社の経営に四苦八苦の編集長。人の好さそうな笑顔を振り撒きながら、腹の中は真っ黒なアメリカ人実業家。無意識の扇情的振る舞いにより、男たちを次々虜にしていく美女。前半はほとんど人物紹介のような趣。人物図鑑の充実が、進まない話をフォローする。

 そう、『ラム・ダイアリー』は話になかなかエンジンがかからない。エンジンがかかっても予想外の方向に転がる楽しさは見当たらない。島の沖合いに現地人を排除した一大リゾート施設の建設を目論む実力者の思惑。ジャーナリストは文章の力でそれを防ぐことができるだろうか。正義と悪を対立させて、その行く末を見守るというのは、クセのある周辺人物たちに見合っているとは思えない。ケンプは話の進行役に過ぎないのではないかという疑問もちらちら。

 …と落胆の空気に包まれてきたところを、ケンプに扮したジョニー・デップが突破する。このところ独り善がりで、しかも当たり障りのない水に浸かるばかりだったデップが、次第に危険な匂い、毛穴に入り込んだ翳りを露にしていく。酒に塗れているのは相変わらず。トラブルも多い。そのだらしない姿のままに、生きる危うさを浮上させる。インクと怒りによって声を叩きつける男として、輝き始める。少なくとも、伸び伸びしている。

 印象的な場面は彼方此方散りばめられている。ケンプが足漕ぎボートで海を漂っているところに、海面から人魚のように美女が顔を出す場面。前の座席のないボロ車を運転するため、ケンプが後部座席に座ったカメラマンの膝の上に座って街中を走る場面。柄の悪い連中を撃退するため、アルコール度数の強い酒を口から吹き出し引火させる場面。

 画面の構図も凝っている。タイプしているケンプを手前に、後ろでカメラマンと同僚記者が戯れているショットには大いに笑う。色彩感覚も優れていて、プエルトリコのカリブ色が愉快に氾濫している。真っ青な空と海が用意されているのも計算だろう、全くデップに似合わない。腹黒い実力者が徹底して全身白でキメているのも可笑しい。

 結末は賛否が割れるかもしれない。所謂カタルシスは見当たらない。むしろ不安な気分を誘う。でも、それで良いのだろう。これはジャーナリズムの目覚めを描いた青春映画。青春とはいつだって曖昧なものだ。





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