闇の列車、光の旅

闇の列車、光の旅 “Sin Nombre”

監督:キャリー・ジョージ・フクナガ

出演:エドガル・フローレス、パウリナ・ガイタン、
   クリスティアン・フェレール、テノッチ・ウエルタ・メヒア、
   ディアナ・ガルシア、ルイス・フェルナンド・ペーニャ、
   エクトル・ヒメネス、ヘラルド・タラセナ

評価:★★★




 映画と最も相性が良い動物は馬だ。では、乗り物だと何だろう。人それぞれ答えは違うだろうけれど、多くの人が列車と答えるのではないか。大地に敷かれたレールの上を悠然たる佇まいで滑走していく気持ち良さは、他の何物にも代えられないそれだ。『闇の列車、光の旅』でも、列車から眺めるメキシコの風景の、なんと柔らかなこと。乗っている人々の心は不安で一杯なのに、剥き出しになった自然には抗えない。レールの終着点にあるはずの希望を信じて、彼らは列車に身を任せる。

 列車と他の乗り物との最大の違いは、レールをはみ出したルートは採れないことで、それが象徴的に描かれているのが強い印象を残す。道に迷うことはないだろう。どこを通過して、どこに留まるかも分かっている。でも、走り出したら最後、停車中の僅かな時間を除いて、列車から降りることはできない。選択肢は一つだ。しかし、青年と少女は途中で降りる決断を下す。それは絶対的な意志の強さによるものではなかったかもしれない。それでも、確かにふたりは列車から降りることを選び、新しい道を突き進んでいく。この部分に見える生命力が何とも魅力的だ。安心よりも直感を信じ、それが彼らの人生を変えていく。

 アメリカンドリームの崩壊が語られ始めて随分経つけれど、それでもまだ完全にはそれは死んでいない。少女は列車を使って父と叔父と共に密入国を試みる。組織のリーダーを衝動的に殺害してしまい、ギャングの青年は追われる立場になる。接点のなかったふたりの人生が思いがけず交錯するシンプルな面白さがたっぷりある。彼らの関係をどう表現すれば良いのだろう。男と女ではあるし、年齢も近いけれど、恋愛感情は生まれない。しかし、互いの中に同じような匂いを感じ取り、或いは生命力の強さを目の当たりにし、その存在を手にしたいと願う。それはしっかりした信頼関係に裏打ちされたものなどでは到底ないし、何かがきっかけで脆く崩れ去る危険を秘めてもいる。でもふたりはそれに賭ける。頼りなくとも賭ける。束の間の人生を賭ける。いじらしく、そして大胆。手を差し伸べたくなる誠実さがある。

 生活描写の数々が入念に描かれていくのも見どころになっている。貧困が蔓延るホンジュラスやメキシコ。それゆえ溢れ返る生々しいまでの暴力。儀式めいたギャング社会。そこを生き抜いていくための知恵と行動力。特に面白いのは、密入国のために大勢の人間が列車の屋根に乗っかって旅をする光景だ。限られた空間の中でどう生きていくのか。食料を調達したり雨風をしのいだり火を焚いたり、そこにはちゃんと生活がある。そう言えば、少女が右目に涙を浮かべた青年を見つけたのも列車の上だった。

 あえてイチャモンをつけるなら、結末が想像通りの範囲から突き抜けられなかった点だろうか。経緯を考えると妥当には違いないものの、もっと別の決着をつけて欲しかったとも思う。傍らに転がっていた幸せをちゃっかり描いても良かったのに…。でもまあ、おそらくそれは作り手が最も避けたかった結末に違いない。娯楽要素も満載ながら、志も高く、それが映画の魅力のひとつになっている。





blogram投票ボタン

ブログパーツ

スポンサーサイト



テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

Friends
福☆こもろ