ル・アーヴルの靴みがき

ル・アーヴルの靴みがき “Le Havre”

監督:アキ・カウリスマキ

出演:アンドレ・ウィルム、カティ・オウティネン、
   ジャン=ピエール・ダルッサン、ブロンダン・ミゲル、エリナ・サロ、
   イヴリーヌ・ディディ、クォック=デュン・グエン、フランソワ・モニエ、
   ロベルト・ピアッツァ、ピエール・エテックス、ジャン=ピエール・レオ

評価:★★★★




 警察に追われてクローゼットに隠れていたアフリカ系少年に靴みがきの老人が尋ねる。「泣いたか」。少年は「ううん」。老人は「泣くだけ損だ」と返す。全く、これだからアキ・カウリスマキ監督が好きなのだ。近頃はどの映画も、泣いて笑って、また泣いての繰り返し。忙しいにも程がある。感情のジェットコースターにより揺さぶりをかけようだなんて、安っぽい。そんなことをしている暇があるなら、カウリスマキは余計な装飾を取り除くことに目を向ける。

 華美という名の無駄の剥ぎ取られたカウリスマキ映画だから、湿っぽいところはない。扱っているのは移民問題。登場人物の暮らしは貧困と隣り合わせだ。しかしここにある命は、涙も笑顔も見せることのないまま、毎日を淡々と生きる。言葉の少ない毎日を、辛いことなどないとシラッと生きる。なんと美しいのだろう。その美観に胸打たれる。心の豊かさとは何だろうと考える。

 カウリスマキはきっと究極のリアリストなのだ。感情を何かに叩きつけたところで事態が好転するわけではない。それどころか叩きつけることで砕け散ったそれが彼方此方に散らばり、後で回収するのに苦労するだけだ。その現実をカウリスマキ映画の人間たちは知っている。

 彼らは声を荒げない。泣き喚かない。無用の笑顔も封印する。そして代わりに、僅かな言葉と動きを大切にする。ただ、大切にする。何気ないその積み重ねはしかし、いつしか何物にも変え難い宝石に変貌を遂げる。『ル・アーヴルの靴みがき』でカウリスマキは、この宝石を人情と呼ばれるものに結びつける。

 重要なのは、この人情が決してベタベタしていないところにある。登場人物が見せる人情はどれもこれもが、水分が僅かに抑えられている。カラッと湿り気がない。だから心地良い。暑苦しくもないし、ムシムシして不快さを誘うこともない。距離感が優れている。

 大抵の映画ならば、少年と老人の別れの場面は、大盛り上がりの演出がなされるだろう。それぞれが思いの丈をぶちまけ、カメラはダイナミックに動き、音楽も大音量で鳴り響く。それがここでは、あぁ、何ともまあ、実にあっさりと…。思わず笑う。そして、その笑いこそカウリスマキの大切にしているものだ。人生なんてそんなもの。どこからか漂ってくる諦観の匂いが好きだ。善人だらけでも、それが鼻につくことなく染み入るのはそのおかげだ。

 それにしてもカウリスマキは、日本が好きだ。音楽が昭和歌謡風なのはいつものことだけれど、今回ラストシーンでアレを持ってくるとは…。日本人が愛するわびさびを、負けないくらいに愛している。いつも肩を叩かれている気分になるのも当然かもしれない。





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