オレンジと太陽

オレンジと太陽 “Oranges and Sunshine”

監督:ジム・ローチ

出演:エミリー・ワトソン、デヴィッド・ウェンハム、ヒューゴ・ウィーヴィング、
   タラ・モーリス、アシュリング・ロフタス、ロレイン・アシュボーン

評価:★★




 血は争えない。これが映画監督デビューとなるジム・ローチはどうやら、父であるケン・ローチと同じく、社会派意識が強い傾向にあるようだ。我々が生きている世界に横たわる、根の深い問題の数々を映像に焼きつける。もしかしたら知らないままに生きていても生活に支障がないかもしれない事柄を、怯むことなく突きつける。作品を観る前から気分が重くなるのは辛いものの、頼もしい映画人と言って良いのではないか。

 その息子ローチが『オレンジと太陽』で取り上げるのは、英国政府、オーストラリア政府による「児童移民制度」だ。19世紀に始まったこの制度は、13万人以上に及ぶ英国の少年少女を、労働者として無断でオーストラリアへ送り込んだというもの。なおかつ孤児院では日常的に虐待が行われていたという。驚くべきことに、しかも1970年代まで続いていた。つい最近のことではないか。いくら伝達手段に乏しかったとは言え、これが80年代半ばまで公にされていなかったというのも衝撃だ。政策により親と引き離された子どもたちは、どんな毎日を送ったのだろう。ローチが目に留めるのも無理はない。

 ローチは政策の当事者たちと距離に敏感だ。被害者たちの過酷な人生は、切り込もうと思えばどれだけでも大胆になれる。哀しみや苦しみに支配された心中を覗こうと思えばいくらでも露にできる。だが、ローチは感傷を嫌う。次々と出現するそれを巧みに避け、事態を冷静に見つめる目を優先する。例えば、遂に親と子が再会する件でも、抱き合う場面すらない。不必要な涙も排除される。感傷を受け入れることで、陳腐なメロドラマに仕立て上げられたら目も当てられないところだ。ローチの冷静さが、児童移民制度の全体像をあやふやなものにさせない。

 ただ、感傷を避けた先にあったのが、「不屈のヒロイン像」というのはどうか。主人公は問題を調査して世間に知らしめる社会福祉士のマーガレット・ハンフリーズだ。ローチは制度の全容を明らかにし、被害者たちがそれぞれの人生を受け入れていくのを補助していく存在として、ハンフリーズを動かす。もちろんハンフリーズは困難に直面する。罵声を浴びせられる。脅迫を受ける。仕事と家庭の両立で苦しむ。しかし、彼女はめげない。涙を堪えながら、不安に怯えながら、それでも被害者の救済に走る。物語が進むにつれ、彼女の立派な行いそのものに焦点が合わせられていく。ハンフリーズを演じるエミリー・ワトソンは自分をヒーローとして見せないよう役柄に溶け込んでいるのに、おかしなことだ。

 いくら社会福祉士の意義ある業績と折れない気持ちを強調しても、それよりも心に残るのは被害者たちが語りかける「声」だ。そして、今なお存在する孤児院の「佇まい」だ。或いは、もう戻れない過去の少年少女の「顔」だ。そこには歴史の影が潜んでいる。その影の細部をより克明にして欲しかった。

 この一作だけでは断定できないものの、息子ローチは社会問題と同じくらい、物語を語ることにも興味があるのではないか。『オレンジと太陽』はそのバランスに歪みがある。おそらくこれは作品を重ねることで解消されていく。今後に期待する。





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