アーティスト

アーティスト “The Artist”

監督:ミシェル・アザナヴィシウス

出演:ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ、ジョン・グッドマン、
   ジェームズ・クロムウェル、ペネロープ・アン・ミラー、ミッシー・パイル、
   ベス・グラント、ジョエル・マーレイ、マルコム・マクドウェル

評価:★★★★




 不思議だ。ストーリー自体は「スタア誕生」(37年)の例を挙げるまでもなく、よく知られているものだ。モノクロでサイレントの画面であることも、大騒ぎに値する奇抜なアイデアではない。それなのに、『アーティスト』には若い息吹を感じる。生まれたての匂いが溢れる。聞いたことのない映画の鼓動が耳から離れない。

 無声映画を模倣するだけだったなら、おそらく味気ないものになっていただろう。どれだけ名作を研究し、真似したところで、単なるコピー、軽薄なニセモノに終わるのが関の山だ。ミシェル・アザナヴィシウスはそれに気づいた。そして、それならばとモノクロ・サイレントの画面をしたたかに利用することで、物語を語ることを選んだ。サイレントがトーキーに変わっていったのは、トーキーの方が表現豊かになると踏んだ人が多かったからだろうけれど、アザナヴィシウスは敢えてモノクロ・サイレントを選び、それならでは表現に賭ける。「引き算」を採用し、しかし「マイナスの演出」に陥らない技を繰り出す。

 最も感心するのは画面の温もりだ。モノクロ映画は黒から白へのグラデーションを調節しなければならない。アザナヴィシウスはこれを鮮やかに操る。サイレント映画の大スター、ジョージ・ヴァレンタインはトーキー映画の盛り上がりと共に落ちぶれていく。大スターの頃はピカピカの黒スーツでキメているのが、堕ちていくにつれ黒が褪せ、グレイのスーツへと変わっていく。非常に分かりやすい変化の中に、しかし大スターの哀しみと悔しさが奥行き深く浮かび上がる。おそらくカラー画面ではこの陰影は気にも留められなかったかもしれない。堕ちていくスターを眺めるのは心苦しいけれど、それでもどこかに突破口があると信じられるのは、画面の濃淡が微調節から生まれる温もりに包まれていることが大きいだろう。

 心苦しさと共に希望を信じられるのは、画面の力だけではない。ここには、所謂「嫌なヤツ」が出てこないのだ。憎まれ役に置かれてもおかしくない大スターの妻でさえ、結婚生活の破綻の犠牲者として処理され、その他の人物はほとんどが彼を愛している。彼のおかげでスターへの階段を駆け上がる新人女優、給料が払われなくても献身を忘れない運転手、いつでもどこでも傍らで尻尾を振っている愛犬。彼らの愛の全てが大スターに注がれ、世間から吹きつける冷淡な風からのガードを試みる。思いやりと茶目っ気に満たされたヴァレンタインという人物の魅力もさることながら(明らかにダグラス・フェアバンクスを思わせる)、その周辺人物の温かさが画面を軽やかにする。ジャン・デュジャルダンも、ベレニス・ベジョも、そして犬のアギーもそれを信じさせてくれる顔と肉体の持ち主だ。

 空間の切り取り方も冴えている。縦方向の動きが面白い。堕ちていく大スターは下に向かっての動きが多く、上昇気流に乗る新人女優は上に向かっていくアクションが目立つ。ふたりが映画会社の階段で擦れ違う場面のやりとりなど、分かりやすい例だ。大スターが勝負を賭けたサイレント映画で砂地獄に呑まれていくショットも、面白い暗示と言える。しかも、こうした気遣いが画面の開放感に繋がっている。

 おそらく脚本の段階で相当練られていたのではないか。セリフがなくても、その分画面に情報がたっぷり描き込まれている。例えばアギーの動かし方など、実に巧みだ。時には相棒、時には代弁者、またある時には慰め役として傍にいる。ある場面では守護者として主人の命を救うぐらいだ。困ったところもある主人公でも、愛らしく賢いアギーが無条件に懐いていることで、嫌味なくずっと見守りたい気分になる。アギー以外も人物の出し入れが、さり気なく巧い。新人女優が大スターのジャケットに腕を通して自らの身体を抱き締める場面を筆頭に目に焼きつくショットも多いけれど、ストーリーとのリンクを思うと、脚本に細部まで描き込まれていた可能性が高いと思う。

 脚本と言えば、終幕の流れが好もしい。多くのラヴストーリーと同じく、大スターと新人女優の間には大きな溝ができる。それも精神的に深い溝だ。女の愛情の深さを憐れみとしか受け取ることのできない男の絶望が横たわる。これをどうやって一発逆転に導くのか。思いがけず、そして呆気ない切り上げがなされ、その後は「芸は身を助ける」そのままに映画ならではの快感に導いていく。ここでもアギーの存在が重要な意味を持つ。

 最後に…映画界が舞台で、スター俳優が主人公で、しかも男も女もスターのエゴを露にしながら、それでもなお気分が良い映画は珍しいのではないか。身勝手さも我侭も愛敬に変換される。幸福な魔法が散りばめられている。





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