ドライヴ

ドライヴ “Drive”

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン

出演:ライアン・ゴズリング、キャリー・マリガン、アルバート・ブルックス、
   ブライアン・クランストン、オスカー・アイザック、
   クリスティナ・ヘンドリックス、ロン・パールマン

評価:★★★★




 そもそもオープニング場面だけ観れば、『ドライヴ』が傑作であることは察しがつく。名前も過去も語られない男は、犯罪現場からの逃走専門のドライヴァーだ。「5分だけ待つ。何が起こっても5分だけ俺は君のものだ」。たったこれだけの言葉を残し、突然の逃走劇が始まる。闇に包まれたロサンゼルスの道という道を知り尽くした男は、すぐ傍に警察が迫っていることに動揺することなく、逃走を成功に導く。

 ニコラス・ウィンディング・レフン監督はタイトルクレジットが出るまでの数分で、主人公を説明してしまう。一流の運転技術、地理に対する造詣、知性、判断力、それらを最大限に活かす冷静沈着さと度胸が男の細胞を形成する。言葉は少ない。表情も滅多に変わらない。ボンバージャケットを羽織り、その背中には大きな金色のさそりと孤独を背負っている。最低限にして効率的な情報がたっぷり詰め込まれる。

 男の造形を例に挙げるまでもなく、レフンの演出には「スタイル」というものが確立されている。場面をどう見せたいのか。そのためには映像をどう切り取るべきか。構図や質感は何を選ぶべきか。60年代から70年代に作られたハードボイルド映画への憧れを強烈に忍ばせながら、レフンは画面をリズミカルに構築していく。彼が目指しているものは、極めて単純だ。クールなものを作りたい。カッコ良さを追求したい。ただ、それだけだろう。男のロマンティシズムが横溢する。

 ただし、定石は免れる。一流ドライヴァーが主人公ゆえ、カーアクション場面は当然出てくる。そのときに意識されるのは画面の呼吸だ。心音のような音楽を背景に、車の全体像を外から眺めるよりも、車内の緊張を炙り出す。それにも関わらず、ギアチェンジ場面は一切ない。編集と撮影のリズムを頼りに、レフンは街に電流を走らせる。

 暴力に対する向き合い方は誠実だ。正視し難い暴力が唐突に顔を出す。直接的に見せたり見せなかったり…しかしその残忍性が容赦なく偽りなく降りかかる。そして、それによる代償も忘れない。レフンが目指しているのがクールなものであることは明白だけれど、だからと言って、それに寄りかかるような惰性はない。

 かと思えば、時折意表を突くハズしを入れてくるのが面白い。突如ロマンティック・コメディのような甘い楽曲を背景に流しながらのデート場面が挿入される。大真面目な暴力場面で大真面目とは思えないお面が飛び出す。レフンの美意識を考えたら出てくるのが不思議な感じすらある子どもが、主人公の心を動かす存在として効いてくる。キス、そして過激な暴力へと流れていくエレヴェーター内場面は、画面の色合いといい、スローモーションの使い方といい、漂う詩情といい、強く心に残る。カッコ良くて、でもハズしや遊びがふんだんで、それゆえ新しい風が吹く。ロマンティシズムが溢れても、陶酔には陥らない。

 レフンは自身の美意識を輝かせる。しかし、決して自分が主役になろうとは思っていない。物語の中心にいるのは人間だ。ライアン・ゴズリングの静かな佇まいに風情を、キャリー・マリガンの空気に温か味を、アルバート・ブルックスの非情さに人間味を与える。演技の力を信じ、それが花を咲かせる瞬間を逃がさず、控え目に彩りを加える。

 ロサンゼルスの街並が、とりわけ夜の街並がこんなにも魅力的に映る映画は少ないのではないか。妖しくて、鋭くて、艶っぽくて…なんだか別世界に迷い込んだようだ。男の孤独が胸に沁みるのは、この街の空気だけは彼の頬を優しく撫でるからかもしれない。





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