マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙

マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 “The Iron Lady”

監督:フィリダ・ロイド

出演:メリル・ストリープ、ジム・ブロードベント、オリヴィア・コールマン、
   ロジャー・アラム、スーザン・ブラウン、ニック・ダニング、
   ニコラス・ファレル、イアン・グレン、リチャード・E・グラント、
   アンソニー・ヘッド、ハリー・ロイド、アレクサンドラ・ローチ

評価:★★




 メリル・ストリープとマーガレット・サッチャー。アメリカ人とイギリス人という違いを挙げるまでもなく、まるで共通点が見出せないふたり。しかし、それでもストリープはサッチャーとして魅せてしまうのだ。英国初の女性首相となった鉄の女。寸分の狂いも許さない研ぎ澄まされたコピー能力とメイキャップの力を借りて、ストリープはサッチャーを画面に定着させる。

 おそらくストリープの技術力は世界最高峰だ。身体全体をコントロールする術に長けていて、要求されるものを頭に思い描いた通りに動かすことができる。頬の赤らめ方、指先の微妙な揺らめき、歩くときの呼吸…ストリープは全てを支配する。自身をサッチャーのように見せること自体は、だからそれほど難しいことではないのかもしれない。誰もが知っているシンボルの仕草や立ち振る舞いをものにし、表情に説得力を与え、声までもがあの独特のものとなる。よくもここまでサッチャーに近づけた。技術力が限界を超えた瞬間を目撃した気分だ。

 ただし、それに感動を覚えることはない。ストリープが素晴らしいのはあくまでも技術力だからだ。精巧なマシーンが演技の手本を見せているだけに見える。それのどこが悪いのかと聞かれたら、困ってしまう。好みの問題があるだろうからだ。人間の技を楽しみたい人にはストリープほどの俳優はこの世に存在しないかもしれないけれど、それよりももっと人間的なもの、本能的なものから生まれる表現を好む人とは相性が悪いはずだ。サッチャーを演じたストリープに、情感は感じられない。圧倒的ななりきりではあっても、心踊る感動には程遠い。

 ところが、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』は、そのストリープこそ見ものだ。全然感動は覚えないものの、それでもあなたがいてくれて良かったと思わせる。映画としての破綻があまりに激しい。

 最も理解し難いのは、サッチャーの政治家としての表情が全然描かれないことだ。保守党から下院議員に立候補しても、政治家を志す動機は分からない。女性初の党首になっても、その政治的信念は見えない。IRAのテロ行為やアルゼンチンのフォークランド占領に毅然と立ち向かっても、彼女を動かす原動力は形にならない。政治家サッチャーをサッチャーたらしめていたものは何なのか。鉄の女と言われる所以はどこにあったのか。ここではそれを探ろうともしない。それどころかサッチャーが何を成し遂げた政治家なのか、それすら朧気なままだ。

 作り手が目を向けているのは、サッチャーの人間的強さなのだろう。サッチャーは確固たる信念を持ち、それを決して曲げることはない。家庭を犠牲にするかもしれない。対抗勢力から罵声を浴びせられるかもしれない。国民から支持を得られないかもしれない。同じ党の仲間からも嘲られるかもしれない。閉鎖的な男社会で、それでもサッチャーは自分を曲げない。あぁ、なんと強い人なのだろう…ということらしい。確かに立派だ。立派だけれどしかし、立派なだけでは11年半という長きに渡って英国首相の座に座り続けられるだろうか。そもそも立派であることは、映画的な魅力とは全くの別物。それどころか退屈さに通じているものだというのに。

 認知症となったサッチャーを執拗に追いかけるのもどういうつもりなのだろう。サッチャーの孤独を表現したかったのだろうかとも思ったけれど、幻覚や物忘れ、筋の通らない言動がやけに克明に記されていくため、次第に認知症そのものが話の重心に居座ることになる。その彼女が過去を振り返るという構成もまるで機能していない。むしろ本当に真実が語られているのだろうかと、余計な勘繰りを強いられる。気がつけば、哀れみというサッチャーが最も嫌っただろうものが浮上している。

 終盤でサッチャーは先に逝ってしまった夫に語りかける。「あなたは幸せだった?」と…。作り手が物語やサッチャーを捉えられていないことを証明するセリフだ。





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