戦火の馬

戦火の馬 “War Horse”

監督:スティーヴン・スピルバーグ

出演:ジェレミー・アーヴァイン、エミリー・ワトソン、デヴィッド・シューリス、
   ピーター・ミュラン、ニエル・アレストリュプ、トム・ヒドルストン、
   パトリック・ケネディ、デヴィッド・クロス、ベネディクト・カンバーバッチ、
   セリーヌ・バッケンズ、トビー・ケベル、エディ・マーサン

評価:★★★




 映画に最も愛されている動物は馬だ。犬ではない。『戦火の馬』を観て確信した。馬が大地を駆けていく様、それを眺めるだけで胸を掴まれるのだ。熱くなるのだ。高揚するのだ。スティーヴン・スピルバーグも馬が駆ける姿に魅せられたようだ。何度もそれを捉えたショットを挿入、そのダイナミズムにより感情を激しく刺激していく。泣かせるポイントはここにある。戦場の悲惨さではないのが好もしい。

 実を言うと、やや腰が引けるところがあった。だってスピルバーグが生き物を中心に置いた物語を撮るのだ。しかもそこに無垢なる少年を絡ませる。加えて音楽はジョン・ウィリアムス、撮影はヤヌス・カミンスキー、美術はリック・カーターというのだもの。どんな映画になるかは自ずと予想がつく。あまりにも王道、あまりにも定番、あまりにもありふれているのではないか。案の定、涙と笑いが塗された物語に驚きはない。

 物語に驚きはないけれど、しかし、魔法は極めて魅力的に振りかけられている。何と言っても、主人公の馬であるジョーイが素晴らしい。しなやかな筋肉の乗った身体。栗色の毛。凛々しいたてがみ。足先は靴下を履いているように白く、額には星のような十字架のような不思議な斑がある。走るときの足の優雅さを見よ。気を許したときの優しい目を見よ。第一次世界大戦下、人々は次々とジョーイの虜になる。奇跡の馬の生きる躍動が、いつしか希望の象徴となる。スピルバーグはそれを何よりも大切にした。最も重要な部分を見失わなかった。それゆえに映画の下半身が頑丈になった。

 少年とジョーイが心を通わせる序盤だけで一本の映画になりそうだ。少年と動物という組み合わせには結局抗い難い。大人になる一歩手前の少年を演じるジェレミー・アーヴァインは、その無垢な心を力むことなく伝える。ジョーイが彼を信じる点に説得力を与えている。アーヴァインとジョーイが同じ画面に入ると、何か尊いものでも見た気分になる。

 後半のジョーイはちょっとしたフォレスト・ガンプとなる。ガンプはアメリカ史に放り込まれたけれど、ジョーイは戦場に放り込まれる。そして、銃弾の雨が降り注ぐ中、大砲が火を噴く中、毒ガスが充満する中、全速力で駆けていく。人々は彼に魅せられ、愛を注ぎ、希望を思い、しかし戦争の現実に打ちのめされる。一つひとつのエピソードはそれほどに奥行きがなく、戦時下のエピソード集の匂いが漂うのは気になるものの、それでもジョーイが駆けていく後をついていくところに充実感がある。涙にも笑いにも嫌味がない。

 ジョーイの軌跡には奇跡の足跡が刻まれる。ジョーイが中間地帯で動けなくなったとき、英国軍もドイツ軍も一瞬の休戦に入る。それぞれがジョーイに手を差し伸べる。愚かしいと笑うところだろうか。ありえないと馬鹿にするところだろうか。それはジョーイに選ばれなかった者の嘆きでしかないだろう。ジョーイは確かに奇跡を運んでいる。スピルバーグはそれを信じている。そして信じさせてくれる。

 目に焼きつくのは戦争の現実ではない。一頭の馬が戦場を駆ける画だ。そしてその画が生きることを語りかける。





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