パーフェクト・センス

パーフェクト・センス “Perfect Sense”

監督:デヴィッド・マッケンジー

出演:ユアン・マクレガー、エヴァ・グリーン、ユエン・ブレンナー、
    スティーヴン・ディレーン、デニス・ローソン、コニー・ニールセン

評価:★★★




 愚かなことに人という生き物は、平凡な毎日こそ幸せであること、何物にも変え難いものであることを、すぐに忘れてしまう。危機的状況に陥ったときにそれを思い出し、しかしいつしかまた忘れていく。『パーフェクト・センス』に出てくる人々も、きっとそれを噛み締めたに違いない。彼らは謎の感染症により、五感を順番に奪われていくのだ。フェルナンド・メイレレス監督の「ブラインドネス」(08年)の人々は視覚を奪われていたけれど、それよりも過酷な状況だ。終末的世界が果てしなく広がっていく。

 こういう設定にすると、大抵はスリラーになるだろう。一つまた一つと感覚を奪われていくことで、世界はパニック状態になる。その狂乱を描き出すのが普通だ。実際、ここでもそういう描写が出てくる。ところが、画面は静寂の印象の方が圧倒的に強い。デヴィッド・マッケンジー監督は、あくまで男と女のラヴストーリーとして見つめる勇気を見せる。変に恐怖を煽るのではなく、それゆえに生じる心の揺れを掬い取る。スコットランド、グラスゴーで生きるユアン・マクレガーとエヴァ・グリーンが心を通わせる過程こそ、マッケンジーが描きたかったものだ。

 マクレガーとグリーンが奏でるケミストリーが素晴らしい。アパートの二階に住む、面識のないグリーンに向かって、タバコはないかとマクレガーが声をかける。いかにも映画的な出会いを果たしたふたりが同じ画面に入ると、それこそ映画ならではの電流が走る。しかもそれが詩的なのだ。マクレガーの穏やかさとグリーンの苦味が絶妙のバランスで調和を見せる。温もりとはこういうものだったと直に伝わってくる。愛を語り合うわけでもないのに、本能的なところで通じ合っていることが分かる。

 嗅覚を失い、味覚を失い、聴覚を失い…と感覚を失う度に絶望が訪れる。しかし、マクレガーとグリーンがそうであるように、それでも人は道を見つけていく。失ったものを補おうと、新しい道を発見していく。ここに微かな希望が浮かぶ。知恵を与えられた生き物ならではの打開策にホッとする。もちろんその際、人間の醜さが共存するものであることも忘れられてはいない。

 ただ、感覚を失う前に必ずある症状を投入するのは、腑に落ちないところだ。嗅覚を失う前にはどうしようもない哀しみに包まれる。味覚を失う前には貪り食わずにはいられない食欲に支配される。どうやら人間の感情や欲望が剥き出しになるということらしい。これが感覚の喪失と繋がらないところに、脚本の練り込み不足を感じるのだ。感覚を失ってからそれを描くことがどうしてできなかったのだろう。感覚が失われていく流れの中で機能していないので、その部分だけ別の映画を観ている気分になる。

 感覚を失っていくというのは、すなわち人が普段鎧のように身につけているものを剥ぎ取られていくということだ。魂が裸になる。当然本性が見えてくる。マクレガーとグリーンはその試練を乗り越えられるだろうか。互いの醜さを知っても、傷つけられても、それでも相手を受け入れられるだろうか。きっといつかは触れても、それを感じられなくなる。それでも求めずにはいられない人間が哀しく、美しく浮かび上がっている。





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