マージン・コール

マージン・コール “Margin Call”

監督:J・C・チャンダー

出演:ザッカリー・クイント、ケヴィン・スペイシー、ポール・ベタニー、
   ジェレミー・アイアンズ、ペン・バッジリー、サイモン・ベイカー、
   デミ・ムーア、スタンリー・トゥッチ、メアリー・マクドネル

評価:★★★★




 2008年秋に起こった金融危機は未だ記憶から薄れていない。『マージン・コール』はその前夜の物語だ。ある投資会社が倒産を招きかねない危機を察知。上層部がそれを切り抜けようとそれぞれの考えを巡らせる。何と言うか、近づきたくはない題材だ。マネーゲームなんてものとは縁遠い生活を送っている者にとっては、パソコンのディスプレイと睨めっこしながら計算を繰り返す作業など、頭が痛くなるだけだ。ところが、それでもこの映画は面白い。

 第一の手柄は、金融危機で何が起こったのかを極めて分かりやすく説明するところだ。金融用語が次々飛び交い、しかし、その全てを理解はできない。それでも話は分かる。状況は頭に入る。構造が絵となって見えてくる。ハイスピードで交換されるセリフの隅々に種を撒き、そこから芽が出て、蔓が伸び、葉が茂り、いつしか金融業界の地図が出来上がっていく脚本の妙。社の重役たちは揃いも揃って「完結に」「内容をまとめて」と指示を出すのが可笑しい。過程ではなく結果。そして演出でも、咀嚼された結果を提示しているので、混乱が避けられる。遠回しにすることのない明け透けなセリフが画面の速度をぐいぐい上げる。

 話を貫くのはタイムリミットの設けられた攻防だ。市場が開く前までの12時間が、彼らに与えられた猶予だ。その間に状況を隅々まで把握し、方針を固め、手配を済ませ、そして時が来たならば首尾良く動かなければならない。彼らはそれを実現できるだろうか。間もなく何の価値もなくなってしまう商品をどうするか。通常なら数週間かけて売るものを早急に処理しなくてはならない。処理の方法をめぐる社内での駆け引きが、まるでスポーツ映画でも観ているようなテンションを維持しながら語られていく。自らを守りたいトップがこの業界で生き残るために必要なことを言い放つ。「先手を取るか、頭を使うか、人を欺くか」。そして確かにここでは、このサヴァイヴァルの格言が実行に移されていく。テンションは緩まない。

 社員たちの人間性が攻防戦を肉付けしていくところにも旨味がたっぷり潜んでいる。冷酷に利益を守る。自らの保身に走る。正義・良心を思い葛藤する。金融マンとしての誇りに揺れる。将来を悲観する。その想いの数々が人間の怪物性を掬い上げていく。気がつけば、彼らの生活実態が見える。バカらしいそれがあっけらかんと浮上する。でも、どうも憎み切れない。ここは極めて重要だ。

 金融危機のとき、その業界に生きる人間たちは一斉に批判された。無理もない。しかし、そこにいるのは確かに人間であり、彼らもまた苦悩を抱えている。別に彼らを擁護しようなどとは思っていないだろう。しかし、その逞しさもまた見つめている。そしてそれは間違いなく美点だ。冷徹に生きる者も、情を感じさせる者も、それでもまた生きていく。死に行く犬が暗示するものを思わずにはいられなくなる。

 脚本の芯と密着した演技を見せる俳優たちが素晴らしい。「エリート」集団に扮した彼らは、いずれも身体の動きが美しいのが特長だ。限られた空間の中(大半は社が入っているビル内から動かない)、スーツを颯爽と着こなした面々が、己の思惑を激しくぶつけ合う様よ。ジェレミー・アイアンズやケヴィン・スペイシーの妙味、ザッカリー・クイントやペン・バッジリーの初々しさも良いけれど、とりわけポール・ベタニーの人間臭さが気に入った。駐車場でサイモン・ベイカー扮する上司にある言葉をきっぱり言ってのける場面には惚れ惚れ。

 監督のJ・C・チャンダーが優れていたのは、金融危機そのものに近づき過ぎなかったところにあるかもしれない。その発端を見つめながら、必要以上に接近せず、酷く冷静に出来事を眺めている。登場人物が動揺しても、チャンダーは動揺しない。代わりに人間の動きの細部を見つめる。誰が悪い悪くないという点に惑わされなかった演出の勝利だ。





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