善き人

善き人 “Good”

監督:ヴィンセント・アモリン

出演:ヴィゴ・モーテンセン、ジェイソン・アイザックス、
   ジョディ・ウィテカー、スティーヴン・マッキントッシュ、
   マーク・ストロング、ジェマ・ジョーンズ、アナスタシア・ヒル

評価:★★




 クライマックスで魅せる。ある人物を探すため、とあるユダヤ人収容所にやってきた主人公が、その陰惨な風景に打ちのめされるまでが、長回しを使った一呼吸として描かれる。主人公を演じるヴィゴ・モーテンセンから血の気がどんどん引いていく。一筋の涙が頬を伝う。「現実か…」と呟く。カメラが下がっていく。収容所の全体を捉える。瞼を閉じるように暗くなる。

 ナチスを題材にした映画は材料に事欠かない。『善き人』もユニークな視点を持っている。アドルフ・ヒトラーに作品を気に入られたばかりに、思いがけずナチ党に入党させられる文学者が描かれる。権力に好かれたがゆえに悪に引きずり込まれるというと、「デビルズ・ダブル ある影武者の物語」(10年)を連想する。サダム・フセインの息子ウダイの影武者として生きることを強いられる青年の物語。こちらはそれと較べると、堕ちていく速度が緩やかだ。気に入られることで、期せずして安心を得られてしまう不可思議な事態。だから話としての面白味は、その罪悪感と切り離せない。ユダヤ人である精神科医で、かつて戦場で一緒に戦った友人との確執、対比こそが急所となる。

 ただし、その点はもうひとつ巧く機能していない。観ている間中、編集の拙さが気になる。時制の整理が雑だし、省略も無闇にカットしているだけに思える。すると撮影までもが薄っぺらに見えてくる。…とここで気づく。妙に舞台的なのだ。

 英国の劇作家C・P・テラーの舞台劇を基にしているらしく、基本的に会話で話を進めていく。そしてその皮肉な面白さ(不条理さが常に意識される)を捉えることに全力が捧げられている。それは分かるものの、その物語構造を映画的空間に落とし込む工夫は見られない。舞台を映画のセットに置き換えているに過ぎない。編集や撮影に対する違和感は多分、ここから来ている。

 主人公が狂言回し的役割に落ち着いているのが勿体無い。生真面目で、妻からは「台所の天使」と言われている。それなのに変に女性関係に甘く、教え子とサラッと関係を持つ側面も具えている。邦題にあるように、善き人ではあるけれど、食わせ物的要素を感じさせる。その彼が運命に逆らうことなくナチ党に入るおかしみだとか、友人と対立してしまう状況の苦しさだとか、手にしたナチスの力をもてあます苛立ちだとか、あってしかるべきものが浮かび上がらない。

 終幕にはジェイソン・アイザックス扮する友人を助けようとする様が描かれるものの、盛り上がりには欠ける。これはもう、前半にその関係の描き込みを怠っているからだ。危険を冒してまでも助けたい命なのに、善き人特有のもどかしさばかりが後を引く。妻を責めている場合ではない。





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