J・エドガー

J・エドガー “J. Edgar”

監督:クリント・イーストウッド

出演:レオナルド・ディカプリオ、アーミー・ハマー、ナオミ・ワッツ、
   ジュディ・デンチ、ジョシュ・ルーカス、ジェフリー・ドノヴァン、
   エド・ウェストウィック、デイモン・ヘリマン、スティーヴン・ルート、
   ケン・ハワード、ジョシュ・ハミルトン、ジェフリー・ピアソン

評価:★★★




 いかにもクリント・イーストウッドらしいくすんだ色合いの画面の中でジョン・エドガー・フーヴァーは息をしている。美しいけれど、冷たい。フーヴァーの顔には常に影が付きまとう。薄暗い場面はもちろん、明るい場所の大半でも影が付きまとう。イーストウッドが問い掛ける。悪とは何か。英雄とは何か。当然のことながら、イーストウッドは簡単にはフーヴァーを英雄にさせない。

 大抵の伝記映画は主人公の英雄的行為、或いは逆境に負けない不屈の精神を描くことに全力を注ぐ。そうすることで教訓だとか強い心だとか何かを得ようとする。自らを奮い立たせようとする。『J・エドガー』はそういう性質の伝記映画とは趣を異にしている。フーヴァーの業績を取り上げる。それが時代を動かし、壁を突破する。しかしそれが偉業とは映らない。フーヴァーは絶対的権力を巧みに操ることで、国を守り続けてきた。そしてそれを正義と呼んで疑わなかった。その狂信的愛国心の暗部が暴かれていく。したがってここには、歴史に名を残す人物がもたらす快感は皆無だ。もちろん狙い通りのことだろう。

 8人の大統領の下、48年間にも渡ってFBIのトップの座に君臨し続けてきたフーヴァー。その裏を抉り出すということはすなわち、まだ若いアメリカという国の裏側を凝視するということだ。露になるのは美徳ではなく、恥部かもしれない。正義の仮面に隠れた冷徹な表情。フーヴァーはそれを何の疑問もなく受け止める。その怪物性が画面に広がっていく。イーストウッドもそれをはっきりとはジャッジしない。

 レオナルド・ディカプリオはこのあたりを寸分の狂いもなく捉えている。一歩間違えば単なる正義の男。もう一歩間違えば単なる傲慢な男。ディカプリオは動物的本能と密接に結びついたパフォーマンスで、時代を切り裂く。イーストウッドにしては役者に「演技」をさせ過ぎているくらいだけれど、それでも時代にしっとり馴染んでいる。老年期の佇まいがジェームズ・キャグニー風なのも楽しい(メイキャップは相当無理がある)。

 イーストウッドはディカプリオに演技を任せ、自分はフーヴァーの人生の断片を繋ぎ合わせながら、歪なアメリカの輪郭を優雅に仕立て上げていく。一見バラバラなエピソードの羅列。しかし、それがいつしかアメリカの太い道となって見えてくる。いかにもイーストウッドらしい風格が感じられる作法だ。ただ、時制はもう少し整理するべきか。イーストウッド特有の編集の気持ち良さは感じられない。

 フーヴァーが思想を何よりも恐れ、情報の力を信じていたというのが興味深い。ただ、もっと面白いのは、フーヴァーが時代を独走していく過程で、歪みある母子関係と性的嗜好に対するコンプレックスを抱えていたとする解釈だ。大勢の前であれだけ堂々としていながら、大胆不敵でありながら、母親と右腕となるクライド・トルソンの前では人間らしさが隠せない。とりわけトルソンとの関係が魅せる。乱闘から事故のようなキスに雪崩れ込んでいく件に息を呑む。ディカプリオもアーミー・ハマー(見事な快演)も迫真。このフーヴァーのコンプレックスが孤独を生み、アメリカを動かすある種の原動力になっていたとするならば…それは、あぁ、なんと恐ろしいことなのだろう。

 ジョン・デリンジャーの活動。チャールズ・リンドバーグ愛息誘拐事件。共産党の結成。ケネディ兄弟との確執。リチャード・ニクソンとの攻防。アメリカの派手な歴史が浮上し、しかしこれだけでアメリカを切り取ったことにはならないだろう。何しろフーヴァーの独白による物語。虚実が入り混じる。ただ、ひとりの男がその裏で動いていたほの暗さは十分過ぎるほどに伝わる。大国アメリカの明るい正義、その意味を今こそ考えるときだとイーストウッドは見ているに違いない。





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