灼熱の魂

灼熱の魂 “Incendies”

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

出演:ルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモー=プーラン、
   マキシム・ゴーデット、レミー・ジラール

評価:★★★★




 白い大地の上に建てられた石造りの荒れ屋。少年たちが丸坊主に刈られている。Radioheadのミディアムテンポの楽曲「You and Whose Army」に乗せてカメラが捉えるのは、その中のひとりの少年の瞳だ。少年もこちらを見つめる。そしてその中に吸い込まれる。思えばこのとき、悲劇は既に始まっていたのだ。まだ無垢だった少年の魂は、このときを境に少しずつ淀んだものになっていく。

 人生というものは、寛容と不寛容により成り立っていると言っても過言ではない。ところが、『灼熱の魂』のヒロインの人生は不寛容のみに支配されているように見える。ヒロインは中東の国(特定されないものの、ベースとなる戯曲の原作者はレバノン出身だという)で暮らしているキリスト教信者で、村も信者たちで溢れている。彼女への不寛容はおそらく村人たちから始まったのだろう。続いて信じたいはずの兄たちに打ちのめされ、祖母に激昂され、さらには信仰から絶望を与えられる。気が触れてもおかしくない仕打ちに塗れ、しかしそれでも懸命に前を向こうとする。なのに寛容は姿を見せない。これをメロドラマ的だと斬り捨てるのは簡単で、しかし同時に無責任だ。

 ここに政治問題が立ち上がる。宗教の難しさが浮上する。血縁関係の煩わしさがちらつく。暴力が暴力を生む哀しみがまとわりつく。無慈悲な愚かさに覆い尽くされる。立ち向かうのは「命」の光だ。複雑怪奇な運命に翻弄される「命」に手を差し伸べられないもどかしさに憤りすら感じる。社会が抱える恥ずべき真実に容赦ない。

 話はミステリー仕立てになっている。急逝したヒロインの双子の娘と息子が、母の過去を探り、そしていつしか自分たちの出生にまつわる真実を知るというもの。母は娘に「父」への手紙を、息子に彼らの「兄」への手紙を託す。母の遺志を酌み、中東へ向かう姉弟。過去を探り当てるその旅がダイナミックに綴られていく。そうして遂に辿り着く真実には言葉を失う。唖然とする。身体から力が抜けていく。

 しかし、より重要なのはヒロインが人生の最後に見せる決断だ。「父」と「兄」へ手紙をしたためた真意はどこにあるのか。それが見えるとき、ようやく寛容が姿を現す。確かにここでは寛容と不寛容が溶け合っている。いや、溶け合ってはいないか。反発し合いながら、しかしそれでもなんとか共存を探している。それに胸を掴まれる。

 ひょっとすると、物語はご都合主義と取られかねない。偶然が過ぎると言われるかもしれない。作為があからさまとされる可能性もある。しかし、これはそんな次元で語るものではないと思う。行き場のない哀しみと憎しみの炎。立ち上がるその情念が全てを焼き尽くす。それでも後に残るのは灰だけではないことが雄弁に伝わる。

 バスが炎上する場面がある。少し離れたところで女が慟哭している画が忘れられない。冒頭の少年の瞳に吸い込まれ、そこから抜け出せないようだ。いつかそこから解き放たれるだろうか。どうも自信が持てない。





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