ミラノ、愛に生きる

ミラノ、生きる “Io sono l'amore”

監督:ルカ・グァダニーノ

出演:ティルダ・スウィントン、フラヴィオ・パレンティ、
   エドアルド・ガブリエリーニ、マリサ・ベレンソン、
   アルバ・ロルヴァケル、ピッポ・デルボーノ、マリア・パイアーロ、
   ディアーヌ・フレリ、ガブリエル・フェルゼッティ

評価:★★★★




 メロドラマと言うと、どうしてもその内容を揶揄した意味合いで使われがちだ。平凡な日常が色恋沙汰が絡んだ出来事をきっかけに崩れていく。庶民はそこに通俗的な面白さを見るわけだけれど、同時に侮蔑混じりの視線が絡むのだ。しかし、優れたメロドラマは面白い。心を豊かな香りで満たしていくものだ。そうだ、メロドラマはこんなにも潤いに溢れたものだった。『ミラノ、愛に生きる』により思い出す。

 物語は多くのメロドラマと同じように目を見張るようなものではない。ロシアから繊維業で財を成したイタリアの名家にやってきた女がヒロイン。子育ても一段落、裕福だが刺激に欠ける毎日が、息子の友人の出現により変わり始めるというもの。親子ほども歳の離れた男との、しかも息子の友人との恋だなんて、メロドラマはメロドラマでもソープオペラみたいだ。下手なメロドラマはこのチープささえ漂わせる筋書きを、チープなままに見せる。

 この映画は違う。装飾にこれ以上ないというくらいに手間をかけることで、ソープオペラ調の筋書きを気にさせない。とにかくファーストショットから目が釘付けになる仕掛けがてんこ盛りだ。冬枯れのミラノの街にそびえ立つ大邸宅。中に入ると、そこは不思議の国に迷い込んだようにエレガントな気配。まず、インテリアが素晴らしい。椅子が、机が、カーテンが、絨毯が、皿が、グラスが、ピアノが、シャンデリアが、写真が、絵画が、命を与えられたかのように存在感を発揮。階段も、窓も、壁も、廊下も、キッチンも、なんという華やぎ。ストリングスが耳に残る音楽が派手に鳴り響く。

 洋服も思わず声が漏れるほどに素敵だ。ジル・サンダーによる衣装は別に、凝ったデザインになっているわけではない。ところが、目の覚めるような紫、淡いブルーや朱色、オレンジのワンカラー、シンプルにしてリッチな構成によりドラマティックを具現化する。アールデコ調の世界を背景に、輝きは増すばかりだ。

 こうした美術や衣装の美しさはしかし、金に物を言わせたところから来てはいない。もちろんそれなりの金はかかっているに違いないものの、より重要なのは「調和」だ。画面のバランスを最優先にした取り上げ方。それゆえ成り金的気恥ずかしさとは無縁。そのグラマラスな魅力にどっぷり浸かることができる。

 加えて、画面の中心にいるのは浮世離れした美貌のティルダ・スウィントンだ。美術や衣装のインパクトに負けない佇まい。彼女が画面に入ることで美は完成される。美しい。とにかく美しい。とりわけ愛に気づいてからのスウィントンが美しい。凛としていて、なおかつ淫ら。エロティックで、その上それに柔軟性がある。

 メロドラマは時に演出過剰になる。例えばスウィントンが官能に目覚める場面。息子の友人の勤めるレストランで、エビを口に入れるときの大袈裟な演出。カメラはスウィントンの口元を執拗に追いかける。照明は突然スウィントンだけに当てられる。時が止まったように官能が溢れ出す。これみよがしに。もちろん褒めている。

 クライマックスの切り上げも完璧なリズムだ。ある悲劇があり、遂にスウィントンが生まれ変わる。悲劇からラストショットまでは決して短い時間ではないものの、それがまるで全てを悟り、全てを覚悟し、全てを投げ出し、全てを一から始めることを決意した女の一呼吸として描かれる。ほとんどセリフらしいセリフのないままに悲劇が再生の道へと繋がっていく。この快感は何物にも変え難い。

 ところで、終幕の息子の言葉が強く心に残っている。ある出来事があり、息子が母親であるスウィントンに言うのだ。「なぜスープのレシピを教えたんだ」。責めるところが可笑しくて、かつ痛切。アイデンティティーに通じる複雑な問題が映画の底に敷かれている意味は大きい。





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