コンテイジョン

コンテイジョン “Contagion”

監督:スティーヴン・ソダーバーグ

出演:マリオン・コティヤール、マット・デイモン、
   ローレンス・フィッシュバーン、ジュード・ロウ、
   グウィネス・パルトロウ、ケイト・ウィンスレット、
   ブライアン・クランストン、ジェニファー・イーリー、サナ・レイサン、
   ジョン・ホークス、ディミトリ・マーティン、エリオット・グールド

評価:★★★




 いきなり映し出されるグウィネス・パルトロウに驚く。化粧っ気がないままに電話をしている彼女にスターの華が全く感じられない。ほとんど一般人と化しているだけでも衝撃的なのに、その後の流れにもっと驚く。香港から帰国、夫と息子の待つ我が家で彼女は発熱。それどころか突然口から泡を吹いて倒れ、発作状態のまま病院へ搬送、治療の甲斐もなくそのまま帰らぬ人となってしまうのだ。死に行く際に見開いた目が忘れられない。車に轢かれたカエルを思わせる。いくつかの場面の後、解剖のために頭を切開されるのも強烈。パルトロウ、よくやったじゃないの。

 パルトロウがここまで思い切ったのは多分、監督がスティーヴン・ソダーバーグだからだろう。スターたちから絶大な信頼を勝ち得ているアート系作家。『コンテイジョン』で彼が描き出すのは、感染力と致死率が極めて高いウイルスが蔓延する世界だ。「アウトブレイク」(95年)のように娯楽作として描き出すことも可能な題材だけれど、ソダーバーグはドキュメンタリータッチを意識する。今このときにも直面するかもしれない恐怖として、生々しく描き出す。ケレン味はない。しかし、他人事と終わらせられない恐怖がじわじわと沁みてくる。妻を亡くしたマット・デイモンがその死を告げられた際に、事態を飲み込めず「妻に会えますか?」と聞き返すのが、あまりにもリアル。

 ソダーバーグの巧さは世界各地で感染が始まるときの描写だけ取り出しても明らかだ。近未来的なスコアに乗せて、各地の感染者たちがセリフを挟むことなく映し出されていく。ドアのノブを回す。エレヴェーターのボタンを押す。資料を机に置く。人込みに紛れていく。顔色が悪くなる。泡を吹く。倒れる。ソダーバーグ独特のリズミカルな撮影と編集の呼吸により、幾人通りもの感染経路がスピード感たっぷりに浮かび上がる。決して奇を衒った演出がなされているわけではない。むしろオーソドックス。しかし、そのリズムが着実に身体に浸透していく。ウイルスに負けないソダーバーグの中毒性。

 ソダーバーグは見えない怖さを知っている。元々ウイルスという目に見えないものではある。ただ、その症状までもが目に見えない。最初は普通の風邪と変わらない。熱が上がり、咳が出るくらい。その後も発作が起こる他には、見た目の変化が全くない。身体中に湿疹が出るとか、血を吐いてしまうだとか、皮膚がただれるだとか、分かりやすい変化がない。しかし、それゆえ現実感が増幅される。その代わり、たかが発熱が、たかが咳が何ともまあ、恐ろしく感じられる。SARSや新型インフルエンザの流行を思い出さずにはいられない。

 感染の二日目から物語を始めるのも巧い構成。何が原因かを示すことなく、気がつけばそこにあるウイルスの怖さを容赦なく突きつける。日を追うごとに感染者・死亡者が増えていく不気味さ。スタート地点が見えない不安がサスペンスを煽る。ラストでようやく最初の感染経路が明かされたところで、時既に遅し、なのだけど…。

 ソダーバーグはウイルスが爆発的に広がっていく過程を描きながら、同時にそれに密接に関わる人々の物語を追うことで、「人間」を描き出している。最も強く心に残るのはジュード・ロウ扮するフリージャーナリストがブログを使って大衆を扇動していく話か。ウイルス絡みのニュースを真偽不確定のまま発信することで、何かにすがりたい心理を操り、人々がそれにまんまと乗せられていく様。日本でも日常的に見られる愚かな光景が薄気味悪い。

 ただ、WHOやCDCを担ぎ出して政治問題に斬り込んだり、誘拐事件を差し挟んだり、大衆の暴動を念入りに突っ込んだり…と舞台が大きく広がり過ぎた嫌いはある。心理的ウイルス感染図は浮かび上がっても、映画が大味に感じられてしまうのも否めない。ウイルス以外にそれらをまとめ上げる何かが欠けている印象だ。

 豪華スターが集まっているものの、ソダーバーグの冷静・冷徹な演出もあり、その有難味は薄い。皆、役に溶け込むことを優先しているのだ。ソダーバーグの前では皆スターではなく役者になる。ちょっともったいないけれど。ちなみに集められた中で最も演技力があるのはジェニファー・イーリーだ。メリル・ストリープを思わせる顔立ちは大いに残念だけれど、その実力にはケイト・ウィンスレットもマリオン・コティヤールも敵わない。短い中でもそれがはっきり伝わる。





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