ラビット・ホール

ラビット・ホール “Rabbit Hole”

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル

出演:ニコール・キッドマン、アーロン・エッカート、ダイアン・ウィースト、
   サンドラ・オー、マイルズ・テラー、タミー・ブランチャード、
   ジャンカルロ・エスポジト、ジョン・テニー、パトリシア・カレンバー

評価:★★★




 ニコール・キッドマンは類稀なる美貌の持ち主だ。真っ白な肌は陶器のように滑らかで、ウェイヴのかかった髪は流れるように美しい。長身のフォルムもパーフェクトなバランスを保っている。他の人間と並ぶと、もはやこの世の人とは思えない。ボトックスのせいだろう、唇が不自然に腫れ上がり、笑い顔が般若風なのには気づかないフリをするのが賢明だ。

 ところが、こうした美しさは『ラビットホール』のような衣食住に密着した物語ではプラスにはならない。簡単に言うなら、キッドマンには生活臭というものがまるでなく、それゆえ人の息遣いが聞こえてくるような画面からは異様なまでに存在が浮き上がってしまうのだ。例えばエプロン姿ひとつ取り出してみても、こんなに似合わないので良いのだろうかと不安になる。逆に普段着として登場するスタイルがいちいちカッコイイったらない。そんなに高価ではないだろう洋服も、キッドマンが着れば途端に輝き出す。花柄パジャマもフリルのついたドット柄ワンピースも、ひゃー、可愛い!

 ジョン・キャメロン・ミッチェルもキッドマンに生活感を与えようとは思っていない。母や妹との生活との対比を狙ってのことだろう。メイクもヘアスタイルもやたら凝っているし、居住空間のインテリアもこれ以上ないくらいに洗練されている。照明の当て方なんて、高級ファッション誌のグラビアに見えるときもあるぐらい。終いにはキッドマンのスター映画なのではないかと錯覚してしまう。

 キッドマンの浮き具合は別にして、物語はいたって深刻だ。8か月前に交通事故で4歳の息子を亡くした夫婦の物語。依然立ち直れない彼らの喪失と再生が、感傷の海に浸ることなく描かれる。ミッチェルは安易な絶望や希望は用意しない。哀しみに抜け道を作ることなく、ありのままに映し出すのが誠実だ。

 夫婦で「対処」の仕方にズレが生じているのが面白い。夫(アーロン・エッカートが体温を感じさせる演技)は息子の映像を見ながら思い出に浸ることで傷を癒し、妻は息子を思い出させるものを捨てることで現実を忘れようとする。少しでも早く立ち直りたいという願いは同じなのに、ふたりの間には溝ができている。そうして彼らは家庭とは別のところに気持ちを向かわせる。

 この際、夫が別の女との関係に癒されるのは分かりやすいけれど、妻が加害者の少年と交流を始めるのは意表を突く。レベッカ・デモーネイなら「復讐の母」となるところだろうに、キッドマンは彼と顔を合わせ、言葉を交わすことで、不思議な安らぎを得る。このあたりはサラリとした描写に留まっているのが惜しいものの、ふと腑に落ちる瞬間は確かにある。加害者と被害者の母の繋がりという現実感のなさ、そこに潜む僅かな救いにすがってしまったのではないか。

 ヒントはキッドマンの母(すっかりおばあちゃんのダイアン・ウィーストが温か味のある演技)の言葉にある。哀しみはいつまで経っても消えることがないとしつつも、「哀しみの重さが変わる。大きくて重い石が、ポケットに入る小石に変わる」というのだ。失わない人生などなく、それに向き合った夫婦がようやく溝を埋めていく終幕に、不思議な穏やかさがある。





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