狂気の行方

狂気の行方 “My Son, My Son, What Have Ye Done”

監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

出演:マイケル・シャノン、ウィレム・デフォー、クロエ・セヴィニー、
   ウド・キアー、マイケル・ペーニャ、グレイス・ザブリスキー、
   ブラッド・ダーリフ、ヴァーン・トロイヤー、ロレッタ・ディヴァイン

評価:★★★




 主人公が所属する劇団がアイスキュロスの「オレステイア」を上演する件がある。言うまでもなく、父を殺害した母に復讐する息子の物語だ。どうやら『狂気の行方』はこのギリシャ悲劇をベースに敷いているようだ。主人公の心理がどういう流れにあったのかは曖昧にしか説明されない。しかし「オレステイア」関連のエピソードが入ることで、やんわりそれが浮かび上がる。表現法としては面白いような、でもあからさま過ぎるような、微妙なところ。ただし実のところ、ギリシャ悲劇云々はさほど重要ではない。話の筋を追うのに懸命になるべき映画でないからだ。

 ヴェルナー・ヘルツォークが創り上げた世界は、サンディエゴという現実世界を舞台にしているのに、どこかそう感じさせないところがある。何かが歪んでいるような、鏡の向こうの世界に迷い込んでしまったような、落ち着かない気分を誘われる。どうもデヴィッド・リンチ映画の匂いを感じる。そしたらなんと、プロデューサーにリンチの名前もあるのだった。一体全体、リンチはどれくらいどのように作品に関わったのだろう。リンチ映画でははわけが分からない話の中に強烈な色気と快感が浮かび上がるのが常。しかしここにはそういうものはなく、代わりに底知れない不安感に支配されている。

 サーモン色の不思議な居住空間。見たことのない木々や植物。庭には二匹のフラミンゴが戯れている。母親の顔をずっと捉え続ける長回し。停止ボタンを押したような突然の静止。ダチョウだらけの養鶏場。ラジカセから流れる音楽を聞きながら、手を上げている警官たち。母親を殺した主人公と彼に絡みつく何かの気配が常に感じられるところが見ものだ。

 わけても配役が素晴らしい。マイケル・シャノンは目に宿る危うさがいつも通りニュアンス豊かだし、クロエ・セヴィニーの一見普通な、しかしどことなく浮世離れした存在感も面白い。ウド・キアーやブラッド・ダーリフも怪しさ、胡散臭さでいっぱいだ。

 しかし何と言っても素晴らしいのは、主人公の母を演じるグレイス・ザブリスキーだ。息子を監視するように育て上げてきた母親の、無垢でありながら危険な愛情を、ほとんどギャグではないかと思う佇まいで表現している。妙につるっとした肌。吊り上がった離れ目。意地悪そうな眉毛。主張する頬骨。彼女の表情の変化を長回しで捉えたショットには興奮する。そりゃ息子もおかしくなるだろう。

 恋人と演劇仲間が刑事に最近の主人公の様子を語ることで、彼に迫るという構成はさほど成功しているとは思えないものの、探れば探るほどに霧がかかっていくような感じは良く出ている。そしてその霧を感じることこそが映画の狙いなのだろう。不条理で、しかしそれを感覚として理解できてしまうような恐ろしさ。ちょっとしたズレが人間を変えてしまう。

 原題の「My Son, My Son, What Have Ye Done」は母親が最期に口にした言葉だ。そのとき傍にいた者の目撃証言として明らかになる。ぜひともザブリスキー本人のセリフとして聞きたかった。





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