ミルドレッド・ピアース 幸せの代償

ミルドレッド・ピアース 幸せの代償 “Mildred Pierce”

監督:トッド・ヘインズ

出演:ケイト・ウィンスレット、ガイ・ピアース、エヴァン・レイチェル・ウッド、
   モーガン・ターナー、ジェームズ・レグロス、メリッサ・レオ、
   ブライアン・F・オバーン、メア・ウィニンガム、ホープ・デイヴィス

評価:★★




 ジョーン・クロフォードによる1945年映画のリメイクというよりはジェームズ・M・ケインの小説のより忠実な映像化という方が正しいらしい。映画ではなくTVのミニシリーズとして作ったのは、原作の細かなエピソードをできる限り取り上げたかったからではないか。ヒロインの波乱の人生を紡ぐには映画の上映時間だけでは足りない。ミニシリーズとしてたっぷり時間を取って描くべきだ。そういう配慮はしかし、必ずしもヒロインの輪郭をくっきり見せることに繋がらない。むしろ大味で間延びした印象を与える。焦点がどんどんズレていく。豪華に描写されても匂い立つものがない。

 とは言え、ヒロインを演じるのはケイト・ウィンスレットだ。当然観るべきところは多い。ウィンスレットは持ち前の演技力でどんな役柄にも真実味を与える人だけれど、最も説得力を与えられるのは労働者階級の役だろう。子どもがいると、なお良い。「グッバイ・モロッコ」(98年)や「リトル・チルドレン」(06年)あたりがドンピシャ。『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』はそういう意味で、大変ウィンスレット的。ウィンスレットのためにあるような役柄と言い換えても良い。

 1931年カリフォルニア、浮気夫を追い出したことをきっかけにウエイトレスとして働き出す主婦の役。ふたりの娘を抱えて逞しくサヴァイヴァルしていく様が、何ともまあ頼もしい。「寝るのと料理とテーブルセッティングしかできない」と言われた女が、根性で這い上がっていく。皮を剥いだ鳥を躊躇いなくぶった切るところ、汚い言葉で罵る娘の尻を叩くところ、プライド高く高慢ちきな上流階級女に啖呵を切るところ、笑ってしまうほどにイチイチ似合っている。頑丈な下半身があればこそだ。時代を映し出したファッションにも良く馴染んでいる。メリッサ・レオやメア・ウィニンガムとの掛け合いも愉快。

 ウィンスレットが体現しているのはヴァイタリティというものなのだろう。厳しい状況に置かれてもメソメソ泣くのではなく、石ころを蹴るように時代を突破していく。でも、ウィンスレットの説得力を盾にヒロインのサヴァイヴァル術をあまりにも簡単に見せるのはどうか。アッという間にデキるウエイトレスになり、アッという間に手作りパイが人気を博し、アッという間に自分が経営するレストランを成功させ、アッという間に男を獲得し、アッという間にレストランは支店を出すまでになる。たっぷり時間があるがゆえに詰め込み過ぎたとしか思えないジェットコースターぶりで、ヒロインの半生のダイジェスト版の趣が浮上してくる。シドニー・シェルダンの小説を思わせたりもする。そもそも料理の才能と経営の才能は全く別物で、そこのところを無視してしまったのは無謀というものだろう。大恐慌という背景もほとんど意味なし。

 こうしたヒロインの事業家としての成功を描く物語は徐々にフェイドアウトしていく。代わってせり上がってくるのは長女との複雑な愛憎関係だ。この長女、子ども時代から小憎らしさ全開で、いくら子どもとは言え腹立たしいことこの上ない(怒りのあまりピアノの鍵盤を叩きまくる場面に笑う)。彼女は大人に成長してますますとんでもない変貌を遂げていく。怪物的な性格なのに、本人はいたって普通のつもり。沢尻エリカあたりが演じたらピッタリのこの役柄を手掛けているのはエヴァン・レイチェル・ウッドで、これがまた巧いのだ。ウィンスレットはウッドのあまりの言動に鬼の形相となる。しかしウッドは引かない。ウィンスレットが霞む。ウッド、怖えぇぇぇ。

 ヒロインの物語は、娘との確執と落ちぶれた御曹司(ガイ・ピアースが冴えない)との恋愛が意表を突く絡まりを見せながらメロドラマ風に流れていく。うねりはあるけれど情感に乏しく、スピード感はあってもエモーションは刺激されない。観終わった後には虚しい気分が急激にせり上がる。

 いっそのこと、ヒロインをベティ・デイヴィス映画の悪女のように見せれば良かったのに。脆いところがあっても、それを必死に隠して突き進む。ウィンスレットのダイナミックな存在感もその方が断然生きただろう。これでは娘を上手に教育できなかった女の物語でしかない。





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