僕と彼女とオーソン・ウェルズ

僕と彼女とオーソン・ウェルズ “Me and Orson Welles”

監督:リチャード・リンクレイター

出演:ザック・エフロン、クレイア・デインズ、クリスチャン・マッケイ、
   ベン・チャップリン、ゾーイ・カザン、エディ・マーサン、
   ケリー・ライリー、ジェームズ・タッパー

評価:★★★




 オーソン・ウェルズがウィリアム・シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」をブロードウェイで上演したのは1937年のこと。「市民ケーン」(41年)を発表する4年前のことになるという。そのとき、なんと、22歳!『僕と彼女とオーソン・ウェルズ』で描かれるのは「ジュリアス・シーザー」の舞台裏であり、つまりウェルズは22歳ということになるはずなのだけど、演じているクリスチャン・マッケイは1973年生まれ、撮影時35歳ぐらいだろうか。あぁ、なんと強引なキャスティング。しかし、これが大正解なのだ。外見はウェルズというより、くりぃむしちゅーの有田哲平、けれどその貫禄には紛れもなくウェルズの匂いがある。

 言うまでもなく、リチャード・リンクレイターはウェルズの演出に最も力を入れている。リンクレイターは別に映画界の伝説を持ち上げようとは思っていない。むしろ人間的に困ったところを強調している。言葉は汚いし、稽古はすっぽかすし、理不尽な要求はするし、そのときの気分で態度を変えるし、嘘をつくのも平気だし、ほとんど地球は自分を中心に回っていると信じている。身近にいたら絶対に嫌なタイプとして描かれる。

 しかし、それでもなおウェルズは魅力的に映る。安っぽく表現すると、カリスマ性があるということだけれど、マッケイはウェルズのそれを本当にそれらしく掴んでいる。喋り方や仕草を似せるところではなく、それでも周りを納得させてしまう圧倒的な怪物性という点において、掴んでいる。マッケイのように無名であると、余計に難しかったことだろう。時折囁くドキッとする鋭いセリフも違和感がない。それぐらいに説得力がある。主人公を霞ませてしまうぐらいに。

 そうなのだ。ウェルズは主人公ではない。中心となるのは18歳の高校生を演じるザック・エフロンだ。彼がひょんなことから「ジュリアス・シーザー」に端役で参加することになり、その経験を通じて成長していく様こそが、話の軸に置かれている。膨らんでいく夢、厳しい現実、大人の女性への恋、ウェルズへの尊敬と失望、自分の未熟さ…エフロンは少年性を目一杯輝かせて頑張っているし、リンクレイターも決して主人公に対して疎かな演出は採っていない。それでもウェルズの存在があまりに大きくなり過ぎてしまった。怪物は止められない。

 リンクレイターは夢と現実を衝突させることを恐れていない。夢はどこまでも大きくなっていくけれど、現実は容赦なくそれにぶつかってくる。この苦味を無視しなかったことが作品の隠し味だ。

 それにしても、劇場が活気づいている様を眺めるのは本当に楽しい。初日目前で追い込まれていても、劇場主から文句を言われても、劇団員が不平を漏らしても、出番のない者たちが客席で無駄口を叩いても、ウェルズが雷を落としても、それでもどれもこれも舞台を成功させるための一過程。進むべき道筋が通っていて、バラバラの個性が一丸となり栄光に向かうその尊さは、他の何物にも変え難い。終演後客が帰り、ガラガラになったときのもの寂しさにもグッとくる。

 舞台に限ることではないけれど、芸術はなくても生きていけるものだ。しかし、芸術があることで、毎日が何倍もふくよかなものとなる。リンクレイターもそれを肌で感じているのだろう。これはリンクレイターの芸術へのラヴレターだ。





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