唇を閉ざせ

唇を閉ざせ “Ne le dis à personne”

監督・出演:ギョーム・カネ

出演:フランソワ・クリュゼ、マリー=ジョゼ・クローズ、
   クリスティン・スコット=トーマス、マリナ・ハンズ、アンドレ・デュソリエ、
   フランソワ・ベルレアン、ナタリー・バイ、ジャン・ロシュフォール

評価:★★★




 ギョーム・カネは駆け出しだった頃から知っているので、余計に驚く。こんな堂々たるミステリーをスタイリッシュに、格調高く、十分過ぎる重みを湛えて描き出す演出の才能に驚く。私生活でダイアン・クルーガーと結婚・離婚、続いてマリオン・コティヤールとの間に子どもを儲けているのもスゴイけれど、監督として『唇を閉ざせ』を撮り上げたことがもっとスゴイ。

 夜の湖で妻と素っ裸で戯れていたときに何者かに襲われたのがことの始まり。気がつくと病院で横たわっていて、その間に妻の遺体が発見される。物語は一気に8年後に飛び、まだ傷の癒えない夫の周りで、再び奇怪な出来事が起こり始める。…という物語の導入部だけでも面白い。近年は話法に凝ったり、映像を加工したり、視覚効果を多用したり、画面を弄ることで見せ場を作ったり興味を引いたりする映画が多いけれど、映画の面白さの決め手となるのは、結局ストーリーだ。この映画は最初から最後までストーリーの魅力によりグイグイ引っ張っていく。なんと頼もしい。

 カネは焦らない。少々歩みが遅いのではないかと思うくらいにじっくりと細部を撮り上げている。通り魔事件として片づけられたはずの過去に再び向き合うことを強いられる夫は、事情が飲み込めないままに状況だけが変わっていくという立場に置かれ、序盤はほとんど受け身の存在だ。カネはその際にできる隙間に、決して少なくない登場人物を放り込み、複雑さを湛えた人間関係を織り上げ、語られていなかった夫婦の間にあった出来事を紡ぎ出していく。職場である病院の風景や義理の両親、父親の運命等が絡んだエピソードも何気なく紹介される。

 もちろん丁寧に描写された細部は無駄にはされない。後半になるとそれが次々と強力な効果を発揮し、高揚感をぐんぐん盛り上げていく。合図となるのは、患者のチンピラ風の父親が再登場する件だ。常識からずれたような言動で病院を混乱させていた男が思いがけず姿を見せ、主人公を窮地から救い出す。それ以後は次から次へと細部が光を帯び始める。このカタルシスは物語の頑丈さとそれを魅せる術があればこそだろう。しつこいほどの畳み掛け方も、磁力ある粘りを感じさせる。

 カネは回想の入れ方やエピソードの大胆な省力にもセンスを見せていて、それがカタルシスを補強しているのも見逃せない。アクション場面もゴージャスで、その手際の良さに舌を巻く。決して運動向きの体型ではない主人公
の全速力が、画面を突き破るパワーを獲得、もはや主人公に肩入れせずにはいられない。

 推理小説的な味わいの濃い物語には、そうこなくてはと膝を打つ要素が満載だ。巻き込まれ型の主人公。知らなかった妻の顔。脅迫。見当外れの警察の捜査。逃走劇。嘘。謎のメッセージ。暗号。裏社会。後悔の念。決して目新しいアイテムを投入しているわけではないけれど、それぞれが持つ表情がヴィヴィッドに浮かび上がり、それが物語全体の満足感に繋がっている。そうして明らかになる真相に漂う、理性を超えたところにある人間の奇怪さよ。情念が濃い。

 フランソワ・クリュゼはダスティン・ホフマンに容姿がそっくり。最初こそそればかりが気になるのだけど、物語に引き込まれてからは、その人間臭さに目を奪われる。人間が人間であることがいかに尊いかを思い出させてくれる佇まいだった。





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