ハッピー・ゴー・ラッキー

ハッピー・ゴー・ラッキー “Happy-Go-Lucky”

監督:マイク・リー

出演:サリー・ホーキンス、エディ・マーサン、
   アレクッシス・ゼガーマン、アンドレア・ライズボロー、
   サミュエル・ローキン、エリオット・コーワン、
   シルヴェストラ・ル・トゥーゼル、スタンリー・タウンゼント

評価:★★★




 のっけからオヤッと思う。マイク・リー監督作だというのに画面が弾んでいるのだ。誤解を恐れずに言うなら、リーは労働者階級の貧乏暮らしを見つめてきた監督だ。それがまるでオードリー・ヘップバーンあたりの往年のスターでも出てきそうな音楽に乗せて、満面の笑顔を浮かべた女性を軽やかに切り取る。服装からしていつもとは違う。トップはブルーの重ね着。スカートは膝丈のデニム。逞しいブーツ。大きな輪っかのイヤリング。果物の形をした赤いネックレス。女は自転車に乗ってロンドンの風を切る。立ち漕ぎだってする。ただし、マシーンはおんぼろ。

 『ハッピー・ゴー・ラッキー』はポピーという名のこのヒロインの造形がとにかく強烈。と言うより、彼女の人物造形をベースに話を膨らませているフシがある。冒頭おんぼろ自転車を漕ぐ彼女は爽やかだけれど、段々そんな風に優しい目では見られなくなる。ポピーはどこまでポジティヴシンキング。自転車が盗まれても怒ることも嘆くこともせず、「さよならを言えなかったわ」と呑気そのもの。

 ポピーの常にハイテンションで笑顔を絶やさない佇まいを見ていると、気持ちが良いと言うよりも、むしろおめでたく思えたり、さらには鬱陶しく感じられることが多い。相手が仏頂面でもめげないし、辛辣な言葉を浴びせ掛けられてもそれをサラリと交わして、結局自分のペースに持ち込んでしまう。天然にイライラを誘い、身近に彼女がいたら疲れを通り越して怖いかもしれない。

 実生活でも映画の世界でも、完全に浮いてしまうタイプ。ところが、このポピーが画面に溶け込んでしまうのだ。ポピーに合わせて通常のリー映画よりもカメラが跳ねるように動いたり明るい音楽が流れたりするからということもある。普段から接している人間が囲めば、ちゃんとその中の一員として彼女は存在する。こんな女に合う男はそんなにいないだろうと思っても、とてもお似合いの男が姿を見せる。リーが彼女を奇異な目で見ていないからだろう。ちょっとタヌキかキツネにでも化かされている気分。

 演じるサリー・ホーキンスもギリギリの綱渡りだったと思う。底抜けの明るさ、時に不真面目に思える明るさに果敢に挑み、かつそれを絵空事には終わらせていない。

 ポピーの顔が初めて曇るのは、勤めている小学校で子どもの暴力を目撃したときだ。明るさだけではどうももならないこと、通用しないことがあると思い知らされる。このときの表情には、ポピーが決して生まれたときからこの明るさを獲得してたわけではないことが滲む。ポピーにはそうしたくなる何かが過去にあったのだろう。リーはそれを説明しない。正解だ。

 ポピーが自動車運転免許取得のために指導を受ける教官のエピソードも忘れ難い。常に何か怒りを抱えている男。ポピーとはほとんど対極にいる男。その心象が明らかになるときの、演じるエディ・マーサンの顔に胸を打たれる。

 陽と陰が幾度となく擦り合わされる映画だ。リーはそのときに生じる磁力を見つめ続ける。幸せが軋む音が聞こえる。恐ろしいことに、それがクセになる。





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