バッド・トリップ 100万個のエクスタシーを密輸した男

バッド・トリップ 100万個のエクスタシーを密輸した男 “Holy Rollers”

監督:ケヴィン・アッシュ

出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ジャスティン・バーサ、アリ・グレイナー、
   ダニー・A・アベケイザー、マーク・イヴァニール、Qティップ

評価:★★




 ジェシー・アイゼンバーグは有望な若手男優だ。あまり言われないけれど美しい顔立ちをしているし、辛辣さを具えた眼差しはいつだって印象に残る。それに何より、セリフ回しが冴えている。早口で捲くし立てる中に、演じる役柄の抱えている微妙なニュアンスを的確に伝える術を持っている。ただ、困ったことに役柄がどれもこれも同じに見える。ヘアスタイルが常にチリチリで変わらないからではない。どの角度からも、「頭の良い童貞青年」にしか見えないのだ。ここに「屈折した」という形容詞を加えても良い。まだ注目を集めてから数年しか経ってないけれど、早くもタイプキャストの罠にハマりつつある。「ソーシャル・ネットワーク」(10年)では役柄に冷酷さを持ち込んでいつもと違った調子だったものの、それを取っ払ってしまうと、結局普段と同じだ。

 アイゼンバーグは『バッド・トリップ 100万個のエクスタシーを密輸した男』でも「頭の良い童貞青年」を演じている。同じ役柄だから背景をどう変えるかがポイントになる。そうしてここで彼は、ユダヤ人社会に放り込まれる。ユダヤ人社会の独特さは、最近ではコーエン兄弟の「シリアスマン」(09年)が詳しい。ここでも時に奇妙に映るユダヤ人社会を丁寧に描写している。日常服や帽子、髪型は風変わり。結婚に対する向き合い方や娯楽に対する接し方も単純ではない。祈祷には常に熱心で、時間の流れ方も普通からズレているように見える。家族間、同じユダヤ人間の距離もデリケートだ。何度映画で見ても、その度にちょっとした息苦しさを覚える。ただし、アイゼンバーグはいつも通り飄々としているだけ。ユダヤ人社会に放り込まれても何も変わらない。役柄と背景が溶け合っていない証拠だ。

 その彼が親の決めた結婚が破談に終わったことをきっかけに裏の社会に足を踏み入れる。ドラッグの運び屋となり、新しい社会に「直面」する。ただし、「衝突」はしないのが残念だ。薬の取り引き、手にしたことのない大金、魅力的な女…これまでほとんど縁のなかったものに出合いながら、「頭の良い童貞青年」は「頭の良い童貞青年」のままに歩みを進める。

 人間は変わっていくから面白い。そして変わるには物事に積極的に「衝突」しなければならない。青年はそれを怠っているがゆえ、良い子が「ちょっとハメをハズしちゃいました」程度の緩急しかつかないのだろう。どうせならば「地獄を見た」と言いたくなるほどの欲望の渦に巻き込まれてくれなくては…。ジョシュア・マーストン監督の「そして、ひと粒のひかり」(04年)と何という違いだろう。…とここで思い出すのはこれが実話を基にしているという点だ。現実に気を遣って物語の広がりを殺してしまったのかもしれない。

 意味深に描かれながら、サラッと流される家族問題も拍子抜けする。家族の中にも厳しい規律のあるユダヤ人社会。青年は父親とちょっと対立するぐらい。家族同然のはずの友人との関係も淡白。青年と犯罪が溶け合っていないのと同じように、青年はユダヤ人社会とも溶け合わない。

 ドラッグの運び屋業やユダヤ人社会というクセの強い要素を持ちながら、それが交じり合わないもどかしさ。「頭の良い童貞青年」の背伸びした青春ドラマで終わらせてしまうのは勿体無い。





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