アリス・クリードの失踪

アリス・クリードの失踪 “The Disappearance of Alice Creed”

監督:J・ブレイクソン

出演:ジェマ・アータートン、マーティン・コムストン、エディ・マーサン

評価:★★★




 女が誘拐・監禁されるまでの冒頭場面に目を奪われる。車の準備、道具の調達、部屋の改装、パソコンのデータ入力…。丸顔から狂気を滲ませるエディ・マーサンと気弱で人の好さそうなマーティン・コムストンが、やたらアイメイクが濃く蓮っ葉感漂うジェマ・アータートンを車に押し込み、ベッドに縛り付け、そして身代金について記した脅迫状を送る。この流れが秒刻みを意識したリズム作りと早いカット割りを用いることにより、実に手際良く描写される。男ふたりの阿吽の呼吸。無言のままに犯罪が鮮やかなスタートを切る。いかにも「デキた仕事ぶり」を見せられるのは、それが良いことであれ悪いことであれ、気持ちが良い。

 いきなり魅せ方の上手さに感心するのだけれど、『アリス・クリードの失踪』はしかし、その後は脚本の捻りで勝負する。たった3人しか登場しないままに進められる物語。いかにも頼りないものの、彼らのパワーバランスに揺さぶりをかけることにより、予想もつかない展開を導き出す。華麗なる監禁までの流れ、そしてしばらくの掛け合いから見えてくるのは、いたって普通の加害者と被害者の関係。果たして女は助かるのだろうか。男たちは金をせしめることができるのだろうか。シンプルな謎が話を引っ張っていく。

 この際、奇妙な違和感が所々に感じられるのが意味を持つ。マーサンのコムストンへの態度、コムストンのアータートンへの視線、アータートンの金持ちの娘には見えない佇まいに浮かぶ違和感が、後に急カーヴを描く原動力となる。

 もちろんコトはすんなりとは運ばない。歪が生まれる。それをどこに見つけるのか。それぞれが隠し持つ秘密が露になる度に、真っ直ぐ向かっていたはずのストーリーが愉快に脱線する。そしてそこで生まれた歪が新たな歪を作り出す。嘘や愛と憎しみ、そして生存への本能がせめぎ合いを見せていく過程に旨味がある。生死を賭けた騙し合いが白熱していくところに心理上の唐突感はなく、そうだったのかと膝を打つ。

 それぞれの正体が明らかになったところで見えてくる、愛情のベクトルがポイントだ。作戦は練られている。手際も悪くない。しかし、それでも粗が生じるのは、完璧な人間などいないからだ。数学のように正確な答えが出ないものを抱えているがゆえの破綻が面白い。小さな穴が別の小さな穴を生み、それが連なり、いつしか大きな穴となる。真っ暗闇の穴の先には抜け出せない森がある。そこに迷い込んでいくところが見ものだ。

 ただし、終幕の流れはそれぞれの立ち位置が明らかになったがゆえの当然のそれのようにも思える。それぞれが己が一番可愛いとベストを選択、捻ってあるように見えて、実は真っ当な結末。ここはひとつ、さらに複雑怪奇な心理模様に踏み込んで欲しかった。

 先入観を避けたかったのだろうか、キャストは地味だ。好みの役者もない。ただ、それぞれに身体を張った捨て身の演技と言って良い。英国版カーラ・グギノのような顔立ちのアータートンが、顔を目一杯歪ませて美しく撮られたいという普通の思いを完全放棄。コムストンはというと、素っ裸で絶体絶命に陥るというこれ以上ない情けないヴィジュアルのままに、身体を動かす奮闘。マーサンも予想外の素顔を見せて、唖然呆然の度肝を抜く。それぞれが物語を魅せることに全力を尽くしていることが伝わる。英国俳優たちの力量を見た。





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