127時間

127時間 “127 Hours”

監督:ダニー・ボイル

出演:ジェームズ・フランコ、アンバー・タンブリン、ケイト・マーラ、
   リジー・キャプラン、クレマンス・ポエジー、ケイト・バートン

評価:★★★★




 浅はかなことに、「登山家」なんて聞くと、自然をこよなく愛する博愛主義者だとか誰からも尊敬を集める人格者だとかを連想してしまう。実際そういう描き方もできただろうにしかし、『127時間』の主人公アーロン・ラルストンはそんな幻想を粉々に打ち砕く男だ。良くも悪くも言葉や行動が大変に軽いのだ。

 タイトルが出るまでの導入部、ダニー・ボイル監督はラルストンの「軽さ」を「トレインスポッティング」(96年)のあのノリで、疾走感たっぷりに描き出す。分割画面に腹に響くロックミュージック、目まぐるしいカット割り、そしてニヤケ顔のジェームズ・フランコ。躍動感たっぷりに“自由気まま”が立ち上がる。ここに人生の“責任”は見えない。

 この際ボイルは、舞台となるブルー・ジョン・キャニオンの風景をダイナミックに捉える。フランコ演じるラルストンの肉体の鼓動と共鳴しながら、縦横無尽に動くカメラ。ジリジリと暑く、しかし時折吹く爽やかな風。そして冷たい水。大自然のロングショット。全てを包み込む雄大さ。美しさに魅せられ、うっかりため息を漏らしてしまうかもしれない。

 そうして遂に事故が起こる。主人公は大地の裂け目に落下、岩と岩壁の間に腕が挟まり、身動きが取れなくなってしまう。すると自然を遠くから眺めていてたカメラが、フランコの目の高さにまで静かに下りてくる。ほとんど閉所と言って良い空間を、あたかもズームアップで撮るかのように見つめ始める。フランコの肌理がはっきりと分かる。無精ヒゲや睫毛の生え方もくっきり。シワの深さも明確だ。いきなり絶体絶命の状況に置かれた男が大きく映し出され、しかし大地との比べたら、あぁ、なんてちっぽけなのだろう。ここで序盤の「軽さ」の描写が急激に効いてくる。

 カメラはそこで立ち止まらない。今度はフランコの毛穴の中に入り込む。そうして青年のこれまでの人生や夢、妄想を探っていく。フラッシュバックが入り、画面にメリハリがつけられるものの、決して多用はされない。フランコを信じて過剰に説明しないのが上手い。特に人との繋がりを積極的に絶ってきた後悔の念が痛ましく迫る。

 ラルストンが腕を切り落として生還を果たしたのは有名な話だ。当然避けては通れない描写となる。クライマックスとして大々的に盛り上げるのかと思いきや、あくまでエピソードのひとつとして描かれるのにホッとする。最後の最後に思い切るのかと思ったら、随分早くからその可能性を悟っていることに驚く。それしか道はないと理解しても、即断はできない。その迷いを無視しなかったことが素晴らしい。それこそ人間。それに打ち勝ってこその生命力。

 いや、ここで「生命力」なんて言葉を使うのは野暮というものだろう。生きることそのものを映像に記録した、そんな印象が濃いのだ。死を覚悟したことで、それまで無視してきた、気づかぬふりをしてきたものが見えてくる。ラルストンはその価値に気づき、そして猛烈な痛みに向き合いながら、生を渇望する。それはほとんど「飢え」に通じるものだ。127時間はラルストンの泥塗れ、砂塗れ、そして血塗れの精神的な旅でもある。それを「生命力」という収まりの良い綺麗な言葉でまとめてしまうのは、愚かしい。醜いまでに本能的な生への執着が、ここには刻み付けられている。





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