オクトパスの神秘:海の賢者は語る

オクトパスの神秘:海の賢者は語る “My Octopus Teacher”

監督:ピッパ・エアリック、ジェームズ・リード

出演:クレイグ・フォスター

評価:★★★




 きっかけは中年男の小さな好奇心と言って良いだろう。南アフリカ、西ケープ、「嵐の岬」と呼ばれる陸地に近い海の中で、映画プロデューサーだというクレイグ・フォスターが一匹のタコに出合う。タコは無数の貝を全身に張りつけ丸まった状態。これが通常時、我々が真っ先に思い浮かべるタコの姿形だったらフォスターも目に留めなかったかもしれない。しかし、そのとき一人と一匹は出合ってしまった。

 フォスターは毎日このタコに会いに出かけたら何が起こるだろうかと考える。面白い発想だ。発想だけれど、実行に移す人は多くないかもしれない。そもそもタコに毎日会える保障なんてどこにもないのだから。それでもフォスターは出かける。そしてその想いは通じる。タコはいつもフォスターの前に姿を現す。巣穴を知っているだけ…なんて突っ込むのは野暮だ。

 『オクトパスの神秘:海の賢者は語る』はドキュメンタリーだ。タコを追いかけることで見えてくる海の神秘は、それだけで息を呑む。どれだけ海上が荒れ狂っていても、海の中は別世界としてその表情を見せる。陸上では決して見られないデザインの生き物が水を泳ぎ砂を這う。植物は森のごとく立ち上がりゆらゆらと揺れる。タコはそこを優雅に苛烈に生きる。

 海を愛するフォスターが次第に海の生物との境界を溶かしていくのが面白い。海の中では「異物」でしかないフォスターはしかし、一匹のタコに会いに行くことで、本能的な部分で海を学んでいく。身も蓋もないことを言うならそれは、この映画を見てもなお、海に実際に潜っていない者には理解できないだろう。フォスターはタコに愛着を抱くものの、自然界のルールだけは守る。タコに危険が差し迫っても決して手助けはしない。狩りを手伝うこともない。

 この距離感が保たれるから、フォスターがタコを「彼女」という代名詞を使って呼び始めても違和感はない。タコもそんなところを気に入ったのかもしれない。警戒を解き、フォスターに近寄ってくるのだ。タコの手がフォスターの指に絡むショットは、あの「E.T.」(82年)を思い出すくらいで、その後は心を許し合う者同士だから見られる美しいショットが満載。2,000個も吸盤を自在に使い分けたり、実は角があったり、サメから逃げて陸に上がったり、非常に策略的にエサを獲ったり…知らなかったタコの生態に感じ入る。冒頭、貝を全身に纏っていた理由も明らかになる頃には、時の流れに想いを馳せたりもして…。

 タコとフォスターの関係はと言えば、気がつけば恋愛関係にしか見えないのが驚くと言うか可笑しいと言うか(演出・編集は明らかにラヴストーリーを意識している)。タコの姿が一週間見えないときのフォスターはフラれたみたいだし、いつ何時も「彼女」は何しているだろうかと考えるのは恋愛依存者スレスレ。海の中のひと時はきっと、一人と一匹の束の間のデートなのだ。フォスターはカメラの前で「彼女」と呼び続けたけれど、きっと実は密かに名前をつけていたと見る。ふたりの愛は自然界の掟を守りながら感動的な結末を迎える。切なさを感じながら、不思議と安らぎに包まれている自分に気づく。





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