この茫漠たる荒野で

この茫漠たる荒野で “News of the World”

監督:ポール・グリーングラス

出演:トム・ハンクス、ヘレナ・ゼンゲル、マイケル・コヴィーノ、
   フレッド・ヘッキンジャー、ニール・サンディランズ、
   トーマス・フランシス・マーフィ、レイ・マッキノン、メア・ウィニンガム、
   エリザベス・マーヴェル、チュクーディ・イウジ、ビル・キャンプ

評価:★★★★




 まず目が行くのは、退役軍人である主人公ジェファソン・カイル・キッドの現在の職業だ。彼は馬と一緒に各地を転々としながら、大勢の前に立ちニュースを読み聞かせることを生業にしている。色々な新聞に目を通し、面白い話・興味深い話を見つけ、人に話を聞かせてはまた別の場所へと向かう。この職業の意義と彼がこの職業を選んだ理由は、『この茫漠たる荒野で』で大きな意味を持つ。

 1870年テキサス州北部。ジェファソンは幼少時にカイオワ族に連れ去られ育てられた少女ジョハンナを、伯母夫婦の元へと届けることになる。この時代、町から町への移動は楽なことではない。悪しき心を持つ者は次々現れるし、大自然の驚異も襲い来る。おまけに少女は英語が話せず、体力的にも頼りない。つまり馬車の旅は困難になる。そう、映画は直球の西部劇だ。

 果たして、画面一杯に広がる西部の空間が大いに魅力的だ。砂埃舞う大地。遠くにそびえる雄大な山々。陸地とほとんど高低差のない川が流れ、砂漠には木々と岩が交互に出現する。人間はと言うと、南北戦争直後、まだまだ野蛮さが抜け切らない。町は活気がある一方、常に物々しい気配あり。聞こえてくるのは馬車が行く音や銃声だ。ほとんどこれまでの西部劇で描かれてきた光景ながら、とても新鮮に映るのは何故だろう。

 いちばんの理由はポール・グリーングラス映画ならではの編集にあるのではないか。グリーングラスは決して物語を語るのを急いでいるわけではない。それなのに編集にはスピード感がある。カメラが捉えたダイナミックな光景を決して殺さない、自由な匂いがある。人物との適当な距離を守り、西部の世界で生きる苛烈さから目を背けず、けれどそこで生きる美しさもすくい上げる。グリーングラスは画で語り掛ける。編集はその最善を手助けする。

 アクションのいちばんの見せ場は、少女を人身売買しようとする輩との対決だ。薬莢にコインを詰めて銃弾として使う面白さもさることながら、山の傾斜や岩場の影を巧みに使い、視線を上下に揺さぶりをかけるあたり、いかにもグリーングラス。対決の後に夕陽の優しさを取り入れ、そこに少女の歌声を被せるのも愉快ではないか。

 「心の闇と対峙する旅だ」とジェファソンは言う。ジョハンナは両親を先住民族に殺された過去を持つ。ではジェファソンは?グリーングラスは旅の先にあるものをじっくり描き出す。ジェファソンの闇が明らかになり、そしてその先を目指す。だから演じるのはトム・ハンクスだ。西部の世界に綺麗に溶け込んだハンクスの良く響く低音が説得力を持つ。人格者として登場する彼の弱さ、そして強さに真実味が宿る。ジョハンナを演じるヘレナ・ゼンゲル(おでこを全開にするとジュリー・デルピーを思わせる)との掛け合いが映画のハートになる。物語る意味が浮かび上がり、そしてそれは芸術になる。希望を信じたくなる。





ブログパーツ

スポンサーサイト



テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

プロフィール

Author:Yoshi
Planet Board(掲示板)

旧FILM PLANET

OSCAR PLANET




since April 4, 2000

バナー
FILM PLANET バナー

人気ページ<月別>
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
最新トラックバック
QRコード
QRコード
RSSリンクの表示
リンク