アンモナイトの目覚め

アンモナイトの目覚め “Ammonite”

監督:フランシス・リー

出演:ケイト・ウィンスレット、シアーシャ・ローナン、ジェマ・ジョーンズ、
   ジェームズ・マッカードル、アレック・セカレアヌ、フィオナ・ショウ

評価:★★★




 古生物学者のメアリー・アニングの名前は初めて聞く。それもそのはず、19世紀イギリスでは現代以上に女性の地位が低く、せっかく化石を発掘しても、名前が世に出るのは男のそれだったようだ。つまりメアリーは社会から抑圧された状態にある。『アンモナイトの目覚め』の重要なポイントだ。

 フランシス・リーはまず、メアリーの抑圧状態を丹念に映し出す。荒れ狂う海しかない寂れた町。化石発掘は泥の中に身を埋めるようなもの。手袋することなく素手で目的物を掘り起こす。生活のためにアンモナイトの化石を見つけては売り捌く細々とした日常。そしてケイト・ウィンスレット。

 ウィンスレットが草臥れた風貌で登場する。目の疲れと生活感たっぷりの肉体。すっかりおばちゃんで、その言葉は投げやりで、全てを諦めたような佇まい。その彼女がシアーシャ・ローナン演じる令嬢との出会いで己を解放させていくというのは、まあ、ありきたりではあるのだけれど、ウィンスレットの隅々まで計算された演技のおかげでニュアンス豊かに見ることができる。ウィンスレットと対照的なローナンの若々しさも魅力的だ。

 リーは、「ゴッズ・オウン・カントリー」(17年)もそうだったように、登場人物を喋らせることで物語を語ることには興味がないらしい。作品自体が寡黙で、役者の表情・肉体や背景、カメラの動きにより何が起こっているのかを語る。当然何を考えているのか瞬時には判断できない場面もあるのだけれど、その余白に思いを巡らせる作業はとても楽しい。己を狭い世界に閉じ込めていたメアリーがそこから羽ばたく様が気持ち良い。特にウィンスレットの佇まいが「女」のそれへと変わっていくのに唸る。

 そんなわけでセックスシーンは大切だ。ウィンスレットだけじゃなくローナンも脱ぐ。そして、まるで全てが「初めて」のように互いを求める。リーが自由を女優の身体に反射させる。ただし、エロティシズムを堪能するところまでは行かないか。ウィンスレットの身体は性的なものとの相性が、依然としてよろしくないのだ。

 己の別の一面を発見する女ふたりはしかし、一緒にいる幸せを手に入れることができそうにない。立ちはだかるのは「時代」というやつで、立ち向かうにはあまりに大き過ぎる風体だ。ラストショットで見つめあうふたりには色々な想像ができる。ふたりの魂が泣き叫んでいるみたいだ。 





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