チェリー

チェリー “Cherry”

監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ

出演:トム・ホランド、シアラ・ブラヴォ、ジャック・レイナー、
   マイケル・リスポリ、ジェフ・ウォルバーグ、フォレスト・グッドラッグ

評価:★




 多分トム・ホランドは演技力があるところを見せたかったのだろう。ピーター・パーカー役がハマっているため軽いイメージがついているのは確かだけれど、ホランドが力のある役者であることは皆気づいているというのに。ジャンキー役に挑むホランドは、ちゃんと役柄を掴んではいても、どうしたって似合わない。ドラッグが似合わないのだ。演技力云々とは関係ない。

 似合わないと言えば、マーヴェル映画から飛び出したルッソ兄弟もそうだ。出来不出来は別にして、ヒーローの世界を伸び伸びと演出していた兄弟なのに、『チェリー』ではひとりの青年の転落を手記を綴るように描き出していくも、エピソードの羅列に終始、それは具体性に欠けた退屈な世界観の観察に過ぎない。主人公が観客に喋りかけたり、静止画面を横に動かしたり、スローモーションを挿入したり、そうした技が全てスカシに見える。

 大学生の青年が恋に落ち、別れ、衛生兵として戦地へ赴き、帰還後PTSDに苦しみ、ドラッグ中毒になり、遂には銀行強盗に手を染める。ルッソ兄弟はこれを時代順に追っていくも、何を伝えたいのかちっとも分からぬ。大学時代は青春映画風、兵士になればもちろん戦争映画の体、帰還後はドラッグの恐ろしさを訴え続け、強盗場面はチープな犯罪映画の趣。どこかの時代に絞って描けば、物語にも人物にも厚みが出ただろうに。

 例えば、戦場では横たわる仲間の内臓を身体に押し込む以上の画は出てこない。帰還後の苦悩は薄っぺらい「父親たちの星条旗」(06年)みたい。銀行強盗も紙幣に「強盗だ」と脅し文句を書く一辺倒(この時代に、本当にこれで成功するの?)。物語を詰める前のメモ用紙の走り書きをそのまま映像にしたような安易な画の数々が、作品から説得力をどんどん奪っていく。

 そもそも主人公の青年が気に入らない。彼を最も分かりやすく形容するなら「思い込みが激しい」というのがピッタリだ。恋人にフラれた勢いで陸軍に入ってしまうような男。情緒不安定なのか、何かあるとすぐに涙を流す。おまけに良く喋る。物語のナレーションまで担当し、その心象を隅々まで語り掛ける。俺は真面目なだけなんだ。戦争の犠牲者なんだ。あぁ、俺よ、どこまで堕ちていくんだ。青年は己を嘆きながら、その不幸に酔っている。自己憐憫が大変激しい。付き合ってられない。

 さてこの映画、こんな青年でも愛してくれる女がいるのだ。シアラ・ブラヴォが演じる。ブラヴォはホランドに付き合ってドラッグ中毒になる。彼女の目線で見たときに得られる教訓だけは、なるほど真実だ。バカな男に引っ掛かると、人生台無しにするよ。男で痛い目に遭ったらそこから学び、けじめをつけてさっさと次の人生のステージに進むことが大切なのだった。ちゃらーん。





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