足跡はかき消して

足跡はかき消して “Leave No Trace”

監督:デブラ・グラニク

出演:ベン・フォスター、トーマサイン・マッケンジー、ジェフ・コーバー、
   デイル・ディッキー、ダナ・ミリカン、アリッサ・リン、ライアン・ジョイナー

評価:★★★




 主人公父娘が暮らすオレゴンの山の描写に見入る。鮮やかな緑の鮮烈。蜘蛛の巣やシダ、ツタやコケが織りなす芸術。命あるものの息遣いだけが音楽。父娘は文明から切り離された場所で生きる。人が来たときはまるで戦時下のように緑の中に身を沈める生活だ。時間に追われる日々を過ごす者の目には羨ましく映るかもしれない。

 しかし『足跡はかき消して』は、その暮らしが崩壊するところから始まる。ふたりの生活が発見され、そこが公有地だったものだから、強制的に町で生活することになる。もっとふたりの生活を眺めたかったのに…。けれど、その後ふたりが辿る人生の旅路には思うところが多い。父と娘の距離感に宿るサスペンスが効いているのだ。

 イラク戦争帰りの父はPTSDを患っていて、どうしても普通の暮らしに馴染めない。一方娘は、まるでスポンジのごとく目に入るものを自身の中に取り入れていく。「ルーム」(15年)や「はじまりへの旅」(16年)のように文明と未開が衝突する。ここで重要なのは、デブラ・グラニク監督がどちらが人間にとって良いのか、ジャッジしない点だ。それゆえ観る者の心はざわつく。

 車が行き交う人混みが本来の人間の生活とかけ離れたものに見える。無機質なものに囲まれた、他人に無関心な人々の群れ。けれど、父娘が再訪する山の中はというと、あぁ、最初に美しく見えたのは何だったのか、単調で大味に思えてくる。グラニクは価値観を斬るのではなく、文明と未開、それぞれの裸を切り取り、父娘の生き方、その微妙なズレを炙り出すことに賭ける。もちろん大袈裟な演出は皆無、ほとんどドキュメンタリーに近い呼吸を大切にする。

 RVパークで娘が、養蜂の場に出くわす場面が胸に残る。人を刺すイメージの強い蜂たちだけれど、彼らは決して人間の敵ではない。だから防護服を脱ぎ捨てた娘は「怖がる必要はない」と蜂を愛でるのだ。父親への愛と、父親との違いが同時に浮上する、一見美しく、実のところ少し哀しい場面ではないか。

 役者の力が物を言う。父親に扮した丸刈りのベン・フォスターが、背中を丸めて怯えながら山を行く姿に胸が痛む。けれどこれは、娘を演じたトーマサイン・マッケンジーのための映画だ。見た目こそ大差なくとも、登場シーンからラストシーンまでの間に、何と劇的な変化を見せることか。真っ白な肌は緑に映え、その目は全てを見透かすように透明だ。聡明さと愛情深さを持ち合わせ、それゆえ苦悩する少女の激情を劇的に描き出す。フォスターもマッケンジーもその胸の内を激しくぶつけ合う場面はほとんどない。その代わりふたりは、互いの間に横たわる障害に似た何かから目を離さない。そして森はまた、輝き出す。





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