サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ

サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ “Sound of Metal”

監督:ダリウス・マーダー

出演:リズ・アーメド、オリヴィア・クック、ポール・レイシー、
   ローレン・リドロフ、マチュー・アマルリック

評価:★★★




 恋人であるヴォーカリストとバンドを組み、ドラマーとして生きる男ルーベン・ストーンの聴覚に異変が起こるところから始まる。医者によると彼は70~80%程が聞き取れない。そうして突きつける映像から見えてくるのは、世の中がいかに音で溢れているかということだ。音を奏でることを生業とするルーベンが絶望するのも無理はない。

 …のだけれど、『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』、その後ルーベンが支援グループに参加するという流れには、おいそれとは乗れない。身体の機能に問題を抱える者の現実を描く手法として、極めてイージーなそれではないか。聴覚障害向けガイドのような匂いが立ち込めるのではないか。心配はしかし、ギリギリのところで杞憂に終わる。

 自身も聴覚障害を持つ老人が率いるこの支援グループ、「難聴は治すものではない」「難聴は個性のひとつ」だと定義する。その他の難聴者や子どもたちも含めた生活スタイルは、心の平穏を得られる場所としての静寂の世界を強く意識したもので、そこに順応していくルーベンの姿を通して、それに説得力を与えていく。説教臭が極力抑えられる。

 ルーベン役リズ・アーメドの静かな演技が効いている。ドラムを叩くときは大いに激しいのに、普段の彼はその喜怒哀楽を身体全身に表すタイプではない。それでも静かな所作の中にルーベンの変化が見て取れる。とりわけ目の力。大きな目の奥には人間の複雑さを讃える果てしない宇宙が広がる。彼に手を差し伸べる老人に扮したポール・レイシーの、慈愛を滲ませながらも、グループ運営のために毅然とした態度を崩さない人物像も見もの。アーメドの身体に程良く反射する。

 ギョッとするのは後半だ。このままルーベンは支援グループの中で新しい人生を見つけるののだろうと思われたとき、彼の決断が物語を別の方向に転がす。その際の作り手の態度が、ほとんどルーベンを突き放しているような厳しいそれなのだ。ルーベンと老人のやりとりもなかなか重たいものの、久々に再会した恋人とその父親のデュエットは相当強烈だ。現実が急激に立体性を帯びる。胸が痛い。

 ただ、それでもラストシーンに救われる。と言うか、おそらく作り手は多分、ルーベンのこの表情を撮りたくて、この映画を作ったのではないか。再び暗闇に迷い込んでもおかしくないルーベンはしかし、確かに未来に希望を見ている。この場面が忘れらないのは、音が流れないのに、確かに音が聞こえるからだ。最後までルーベンを打ちのめすかに見えて、作り手は決して彼を諦めない。アーメドの目の奥に見えるもの、それに賭けたのだ。





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