獣の棲む家

獣の棲む家 “His House”

監督:レミ・ウィークス

出演:ショペ・ディリス、ウンミ・モサク、マット・スミス

評価:★★★




 南スーダンからイギリスへやってきた難民である夫妻が主人公。…と書けば、社会派ドラマを想像するのが普通だ。実際、社会派要素はたっぷりあり、それこそが持ち味になっているものの、ちゃんと「ホラー」しているのが嬉しい。不愛想な職員ばかりの難民収容所で紹介された、ロンドン郊外の一軒家。夫妻はそこで怪異に襲われる。

 怖がらせる演出に新しいところはない。光と闇を有効活用した画作り。油断したところで見える何か。ショッキングな音が大音量で流れるのもお約束と言えるだろう。ただ、そのベタな演出の裏側には、人間が抱える過去と密着した負い目が潜んでいて、それが恐怖を単純なものに見せない。じわじわと身体の内部に沁み込んでくるそれに変換される。

 低所得者向けと思われる家。夫妻が紹介されたそれはボロボロで、目を凝らすと汚らしいところも多々。けれど、それがふたりの新しいスタートになる。普通なら家がどんどん綺麗になっていくところだろうに、『獣の棲む家』ゆえだろう、ますます人が住むところでなくなっていくのがユニークだ。壁の向こうから謎の音。剥がれる壁紙。増え続ける壁穴。これは一体どういうことか。

 お化け屋敷映画の体裁を借りながら、炙り出されるのは難民たちが背負い込む不安や孤独だ。そして、家は問題のメタファーだ。人生の再スタートを切る希望に満ちるべき場所。そこで憎悪や嫌悪が傍らにある周囲の目に晒され、けれどだからと言ってそこを出れば、戦禍の故国への強制送還が待っている。夫妻は怪異との対峙と共に、真っ暗な未来に押し潰されそうだ。 

 怪異の正体はどうとでも読めるものの、夫妻の過去が大きな意味を持つことだけは間違いない。夫妻には娘がいて、脱出の際に彼女と死に別れてしまったことが示唆される前半。そのエピソードが別の表情を持って浮かび上がるあたり、後半、恐怖の奥行きがグッと深まる。妻は言う。あれだけの地獄を見てきて、私が暗闇の音を恐れると思う?この言葉がなるほど、立体的に立ち上がる。本当に恐ろしいものは何か。それが見えてくるのだ。

 そうして導き出される結末がまた、難民問題への一回答のようで面白い。怪異からは決して逃れられない。そう覚悟を決めた夫妻の決断が力強い。彼らはいやいやそう決断するのではない。陰惨な過去をなかったことになどできないと悟り、苦しみを忘れるのではなく、傍らに置いて生きていくことを決断する。これ以上ない、誠実な着地点。ホラー映画としても、断然あり、だ。





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