ウルフ・アワー

ウルフ・アワー “The Wolf Hour”

監督:アリステア・バンクス・グリフィン
出演:ナオミ・ワッツ、ジェニファー・イーリー、
   ケルヴィン・ハリソン・ジュニア、エモリー・コーエン

評価:★★




 時代と場所の特定は簡単だ。1977年ニューヨークだ。ジミー・カーター大統領の名前が出てくるし、もっと分かりやすいのは、44口径の連続殺人犯、通称「サムの息子」による事件を伝えるニュースと、突如始まる大停電だ。「サマー・オブ・サム」(99年)でスパイク・リーが大々的に取り上げたあの夏、ブロンクスのアパートに住む女流作家の物語。

 ナオミ・ワッツ演じる『ウルフ・アワー』の主人公はある出来事をきっかけに引きこもり生活を送る。あるときから無言のブザーが鳴らされ続け、精神的に追い詰められていく。何度も繰り返されるブザー音。当然誰が鳴らしているのか、知りたくなるというもの。もしかしたらサムの息子かもしれない?アパートを訪れる人々の顔を注意深く観察する。何かヒントを落としていくのではないか。

 …という謎で引っ張る割に、ちっともスリラーの体をなしていないのが問題だ。いや、最後まで見れば、ブザーの正体は察せられるのだけれど、散々引っ張っておいて、きっちり描き出さないのは厳しい。人生のどん底に落ちたワッツの心の旅。おそらく狙ったのはデヴィッド・リンチやデヴィッド・クローネンバーグのような魅力的な悪夢なのではないか。

 作り手としては、ライヴァル作家でもある友人や配達人、男娼らの来訪と彼らとの掛け合いの中に、主人公の苦悩や焦燥を映し出したかったはずだ。彼女のヒット作と父親との確執の絡んだ過去も見えてくる。とりわけ彼女を苦しめる過去の出来事は重要なはずだけれど、意外にあっさりした内容であり、衝撃と言えるほどのものはない。明らかになったからと言ってドラマが動き出すわけでもない。

 そうして…ようやく、ようやく大停電とそれをきっかけにした暴動や略奪が始まる。遂にサムの息子が現れる!?…ことはなく、アパートから一歩も出られなかったワッツが外に出るきっかけを作る。そうしてやっとこさ、これがスリラーではなくドラマだったのだと分かるわけだ。提示される悪夢が個人的世界で完結されるもので占められていたあたりで気づくべきだったのかもしれない。

 この映画にリアルな手触りがないのは、ひょっとして撮影に原因があるのではないか。部屋はゴミで溢れているのに、匂わない。ワッツはやつれているのに、それでも綺麗。手の平を怪我しても、痛くない。重い荷が出てきても、重く見えない。決定的なのは暑さだ。死者が出るほどの記録的猛暑。扇風機は回れど、うだるほどに暑いはずの部屋が、ちっともそう感じられないのだ。暑さはそれだけで人を追い込むものだ。せっかくの装置が機能しないのは、大いに不幸だろう。





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